TAK44マグナム

レッド・スパローのTAK44マグナムのレビュー・感想・評価

レッド・スパロー(2017年製作の映画)
3.7
スパロー、それは美しき罠。


ジェニファー・ローレンス主演のスパイ・サスペンス。
共演にジョエル・エドガートン、ジェレミー・アイアンズ等。


ボリジョイバレエのプリマドンナであるドミニカは、アクシデントで足を骨折し、バレエを続けられなくなってしまいます。
ロシア情報部の高官である叔父の勧めで情報部の仕事を手伝った際に殺人の目撃者となってしまったドミニカは、自身の保身と病気の母親の生活をまもるために、第四学校と呼ばれる秘密の訓練校に入ることに。
そこは国家に忠誠を尽くす、
スパローと呼称される特殊工作員を育成する場所でした。
敵国の諜報員や外交員に性的な魅力で近づき、情報を入手するハニートラップのスペシャリストになるべく、ドミニカは自らの恥部でさえ晒さなければならない過酷な日々を過ごします。
やがて彼女に与えられた任務は、アメリカの諜報員であるネイトの信頼を得て、ロシア上層部の裏切り者の名前を聞き出すというものでしたが・・・・・


本来であれば、動的なスパイもののウリとなるであろうアクションを封印、スパローであるドミニカを中心とした心理戦を静的かつ性的に描写しております。

お話は特別難しいこともなく、ロシアの裏切り者が誰なのか?そして、ドミニカはスパローである運命から逃れられるのか?
主にその2点に重点をおいており、二転三転する状況の変化に合わせてドミニカがどのようなスタンスをとるのか、最後まで彼女の真意が分からないので、ほどよい緊張感が持続するのが素晴らしい。
何せ尺が145分もあるので、普通なら途中でダレてしまってもおかしくないところ、本作は見事な引力を発揮して退屈させませんでした。

鑑賞前に想像していたよりエロティシズムは控えめで、過激な濡れ場などはありません。
J・ローレンスは股間以外を全てさらけ出してくれますが、物語上必要なだけで(しかもオッパイは数秒)、ポルノ映画のそれのような過度な性描写を期待すると肩透かしを食らう羽目になるでしょう。

それより、哀しみを背負ってもなお自分を見失わずに生き抜くドミニカの姿が、たとえ服を着ていても、顔に青あざをつくっても、美しいではありませんか。

伏線が一気呵成に解消されてゆくクライマックスは、似たタイプの他作品と比べ地味ではあっても溜飲を下げさせるパワーに溢れており、洒落たラストシーンで結実するドミニカの数奇な運命、そしてこれからの未来を感じさせながら突入するエンドロールにて、後ろ髪を引くような余韻を深く燻らせたのでした。

後で思うと伏線の張り方に工夫があり、ドミニカの行動に二通りの意味があるように見えるんですね。話の流れからいって「ああ、ここであの為にこれをやるんだな」と思わせておいて、実は裏の意味があったりして驚かせられました。
伏線を伏線のように見せないカモフラージュが施してあって、かなりグッときましたね。


どこからどう見ても優しそうなので、どうにもクレバーなスパイとは思えないジョエル・エドガートンや、ゲキ渋なジェレミー・アイアンズ、そして最早プーチンにしか見えないマティアス・スナールツ、第四学校で無茶ばかり言ってくる教官役のシャーロット・ランプリング・・・
誰もが適役でしたね。

しかし、全編通して気になったのが、あまりにもアメリカ寄りの描き方をしている点。
こと諜報戦に限ってはアメリカだって汚い手を当然使いますし、表には出せないことだらけでしょうに、本作ではロシアこそ諸悪の根源だと糾弾するような勢いなんですよね。
たしかにロシアも人権なんぞへったくれとばかりに酷いことをしているでしょうが、これでは平等に描いているとは思えません。
原作者が元CIAの方という事なので当然なのかもしれませんが、007のような勧善懲悪モノとは違った深掘りを期待してしまいました。
あくまでも「西側の映画」でしたね。

それはそれとして、本作はヒロインの静かなる戦いを見守る映画だと言えるでしょう。
派手さはなくとも、自由と尊厳を求めるドラマがあります。
銃撃戦やマーシャルアーツよりも心理的なトリックプレイを楽しみたい気分の時にオススメです。
ただし、かなり痛々しい拷問など、容赦のない暴力シーンがありますので、苦手な方はお気をつけください。


劇場(イオンシネマ海老名)にて