磔刑

レッド・スパローの磔刑のレビュー・感想・評価

レッド・スパロー(2017年製作の映画)
2.4
「抜くにも感動するにも中途半端」

リアル路線のスパイ活劇なのだが、いかんせんリアルを追求し過ぎた為に非常に地味である。まずアクションが全く無い。加えて荒唐無稽なガジェットや尖ったキャラクターも存在しない。ならば今作の見所は何処なのかって話なのだが、それは主人公ドミニカ演じるジェニファー・ローレンスのお色気シーンである。

リアル路線のスパイ映画。しかも主役が女性という事もあり、そのスパイ活動の主軸がハニートラップとなっている。なのでやたらと脱いではそのワガママボディを惜しげも無く披露し、お乳はボロン!お尻はブルルンッ!!とジェニファー・ローレンス親衛隊は感涙ものの演出の連続である。
これからはネットに流出したジェニファー・ローレンスのヌード映像にお世話にならなくても済みそうだ。

そして、そんなお色気要素が見せ場と言わんばかりのシーンを度々を見せられる側としては、深夜のテレビで放送している三流映画のお色気シーンに一喜一憂する中学生の様に無邪気に喜びたい所だが、「今、私は一体何を見せられとるんだ…」と戸惑わざるを得なかった。
流石にこの一連のシーンに映画としての高揚感を感じるには無理があり、例えるならソフトな企画モノのAVを見ているようなやるせない気持ちであった。エッセンス程度のエロなら作品の華になるだろう。しかし、これだけゴリゴリに見せつけられると有り難みが無い。てゆうか求めてない。
それに序盤のスパイ養成施設での実技やら研修が脱ぐ事ばかり強要され、情報収集の為の手段やテクニックを何一つ具体的に教わってないので、ドミニカのスパイとしての成長を感じられない。ハニートラップが専門の集団とはいえ、あれでは風俗嬢の研修となんら変わりない気すらして、肝心なスパイ映画としての説得力に罅を入れてしまっている。

アクション頼りではないスパイ映画にも幾つかのお約束の見せ場が存在し、今作もその凡例に沿って作られている。しかしどうも緊張感に欠けている。
ドミニカが情報の入ったディスクをダミーとすり替えるシーンでダミーが入った引き出しが開かず、ドミニカが動転する場面がある。観てて成る程。その場面には都合良く反目するエロ上司が居合わせており、実はドミニカの裏切りを見破っていて先手を打っていたのだと思った。ところがどっこい。ただ単にドミニカが開け方を間違ってただけでちゃんと操作すると何事もなく開くではないか。なんじゃそりゃ!よくそんな不器用さでスパイになれたな!!股の開き方じゃなくて引き出しの開け方を教えてもらうんだったな!!
物語の肝であるモグラもドミニカやネイト(ジョエル・エドガートン)の努力や駆け引きとは無関係に勝手に登場し、カタルシス皆無である。なんならモグラの件忘れてましたよ。
基本的にはドミニカがアメリカ側かロシア側に付くかのシーソーゲームを軸に進行するので、始めと終わりにしか登場しないモグラの話をラストにくっ付けられても、「上手い!」と言うよりは「あぁ・・・そんな話ありましたね」って感じである。

ネイトの拷問シーンもドミニカの助けに入るタイミングの悪さが目に付いてしまう。四肢を縛り付け、一通り拷問され衰弱し、その上敵が凶器を手するまで待ってから助けに入る意味が分からない。それなら首を絞められてる段階でタックルするなり、手伝う振りをして背後から殴りかかった方が良かったのではないか?皮を剥ぐ拷問シーンをやりたいからって人物の行動原理を歪めては折角のリアルな雰囲気を台無しににするだけだ。
ドミニカとネイトのセックス依存の薄い恋愛劇も、上司の命令でも容易くセックスしないドミニカが愛したネイトにだけは望んでセックスをする事で、二人の関係性の深さやら貞操観念、人間性を表したいのだろう。しかし結局の所、心の開き方と股の開き方が連動しているだけの安っぽい話にしか見えない。全編通してジェニファーの尻やら胸やらを映すのに躍起になって、肝心な部分が穴だらけで真顔にならざるを得ない。

スパイ映画の華である拷問シーンもドミニカ相手には甘さが目立つ。知能戦と言うよりはドミニカの色気で煙に巻く戦法で、その説得力を補強するシーンが見せ場であるがそれに映画的面白味を感じるかは物凄い人を選び、ジェニファー・ローレンスのファン以外お断り感は拭えない。
エンタメスパイ映画の中でハニートラップを主体に描いた作品は稀有であるだろうし、その試みには一定の価値はあるだろう。しかし、スパイ映画の主であるアクションや頭脳ゲームを脅かす程のポテンシャルは無いと感じるのと同時に、この奇抜なジャンルの伸び代は薄い様に思えた。

監督や主演の挑戦的な気概は評価してあげたい。だがスパイの暗部を映す作品ではありながらその闇の部分をロシア側に丸投げするスタンスには覚悟が足りなかったと言わざるを得ず、そのクセ全編英語ってちょっと時代錯誤な稚拙な演出に思える。
そこも作品のシリアスな雰囲気ではあるが、バカ丸出しにしか見えない要因だ。
磔刑

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