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トンネル 闇に鎖(とざ)された男のTSのレビュー・感想・評価

4.2
【絶望の暗闇】88点
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監督:キム・ソンフン
製作国:韓国
ジャンル:スリラー
収録時間:127分
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最近の韓国映画はハリウッドに負けないくらいの面白さを備えていますが、ワンシチュエーションスリラーが好きな自分としては、今作は十分すぎるほどに楽しめた作品でありました。ワンシチュエーションスリラーとしてはかなり長めの120分超え。確かに普通に考えたら違和感がある箇所もありますし、サバイバル映画であるのにややコメディ的になってる箇所もあります。しかし、やはり最終的には総合的に緊張感が続く映画であると思われました。また、韓国社会を痛烈に批判している部分もあったのでよかったです。

自動車ディーラーであるイ・ジョンスはガソリンスタンドで給油を頼んでいた。そこで難聴の老人の店員は誤ってガソリンを満タンにしてしまう。そのあと、イ・ジョンスはトンネルを通過するのだが。。

この老人の何気ないミスが実はイ・ジョンスに大きく貢献することになるという伏線がまた良い。まもなくしてトンネルは崩壊し、彼は車の中で生き埋めとなってしまいます。冒頭からこれなので中々展開が早い。そして奇跡的に携帯が使えるため、レスキュー隊にあらゆる指示をしてもらいます。と、これだけ聞いたら100パーセント助かる感じがするのであまり緊張感はないのですが、救出作業はかなりの困難を極めるようでして、刻々と携帯の電源がなくなっていくことが心配させられます。ドローンの電波は届かないのに何故携帯の電波は届くのだという最大のツッコミもありますが、まあこのあたりは奇跡としておきましょう。果たして彼は助かることが出来るのか。

と、単純なサバイバルスリラー映画としても楽しめるのですが、それよりも社会を批判した描写にも頷けました。特にマスコミへの批判描写はかなりのものでしたね。マスコミが人命より報道、転じて自社の利益しか考えないというところが皮肉でしたね。確かに報道することにより世論を動かせることが出来るので、見方によっては素晴らしい存在のはずなのですが。。また、トンネル建設の杜撰さも炙り出されていて、韓国の土木建築会社への警鐘とも捉えられるでしょう。設計図通りに建設していないなんてことはザラであるようです。そして、1人の命より次の建設計画に目がくらむ経営者。助けるという行為を行なっていた者が死亡した時簡単に揺らぐ世論。何も韓国だけの問題ではなさそうです。

厳しい言い方をすれば、この映画は、「他人の命など所詮他人事」と思う人間の本質を描いています。マスコミが騒ぐのは、騒げば自分たちの報道が注目されるから。世間はただの暇つぶしで見ているという感じでして、実際はそんなものなのです。人間も一界の生物にすぎません。完璧ではないのです。そして、それを踏まえての彼のあの一言は笑ってしまいました。理解できない長官。由々しきシーンでありました。

生き残るためのノウハウも知れますし、何よりも人が他人をどう捉えるのかということを大いに知れました。もちろん、レスキュー隊のあの隊長のように逞しい思想を持っている人もいますが、それはごく少数。ただ面白いとだけは言わせないところが、さすが韓国映画といったところでしょう。終盤はやや急ぎ足だったので少し勿体無いと感じましたが、それでも十分な佳作でした。
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