Melko

アタック・ナンバーハーフのMelkoのレビュー・感想・評価

アタック・ナンバーハーフ(2000年製作の映画)
3.7
「あいつらにはもうウンザリなんだ!」
「あなたは、彼らが女じゃないから嫌いなの?男じゃないから嫌いなの?」

「あなた、ゲイを何人知ってる?周りにゲイの友達いる?知らないのに、私たちのこと差別する資格、ないんじゃないの?」

クールで口が悪い主人公モン
明るいぶりっ子なムードメーカー ジュン
ゴリっとゴツいが誰より乙女な”水牛”ノン
華奢な美人で勝気なピア
困り眉の小心者 親に言われるまま女性と婚約中のウィット

心優しいオナベの監督ビー
その教え子で三つ子のオカマ エイプリル、メイ、ジューン
そして、責任感強いノンケのチャイ

オナベの監督が率いる、オカマ8人+ノンケ1人の「男子」バレーボールチーム
チーム名は、鋼鉄の淑女”サトリーレック”

オカマだからという理由でバレーチームの選考に外れたモン。親友ジュンと共にビー監督の元でチームを結成。オカマ同士、オカマとノンケぶつかりながら、彼らは地区予選を勝ち進む。そして遂に、男子バレー国体へ第五地区代表として出場することに…

主人公たちがそもそも「動ける」オカマで運動神経が良いため、彼らがバレーを上達させながら試合を勝ち進む話なのではなく、「マイノリティである」ことの逆風に立ち向かい、仲間同士信頼し合い成長することでチームとして成長する話。
マイノリティが勇気をもらえる良い話だし、何よりこれが驚きの実話なので、見終わった後のホッコリ感がたまらないのだけど、タイの映画にありがちなチープなBGMと薄寒めの細かなギャグのオンパレードなため、仕上がりがなんともうっすらしていて間延び感がハンパない。同じスポ根系映画でも、インド映画とかに見られる濃厚なドラマやしつこいぐらいの涙はなく、良くも悪くも全てのエピソードが軽やかに描かれる。

ただ、それなりにキチンと伝えたいメッセージは入れている。
モン達オカマはプライドは高いが、その分感情の起伏が激しく、些細なことで喧嘩をして集中力を乱してしまう。大事な試合でそれをやられては、「良い加減にしろ!」と怒鳴りたくなるチャイの気持ちもわかる。先入観なく言ってるつもりのチャイだが、なにかと虐げられてきたモンには「私たちがオカマだから言ってる」と言われる。両者それぞれ思うことがあって、感情に訴えるだけでは解決しない。自分が何を思っているのか、そのすり合わせができなければチームとして成立しない。バレーのようなスポーツに限らず何にでも言えることだなと思った。

アンパンマンの顔が濡れて力が出ないよ的な、スッピンだと力が出ない描写は、なるほどな、と思った笑
いやシンプルにめちゃわかるわ、その気持ち。

美しいピアにつきまとい、真意が見えなかったチャットも、ホントに心から愛していて、でも体裁として女性と結婚せねばならず、彼女とは一緒にはいられないのね…とちょっと切なくなった。そんなこともあるのか、、

最初タイ語オリジナル音声で見てたけど、どうもしっくりこず、日本語吹き替えにしたら、やたらしつこめのオネエ口調が主人公たちのナヨっとした動きにとても合ってた!誰よりもオナベ監督の田中真弓が合ってた笑

サトリーレックの個人的推しは、「ギャー!爪が折れちゃったぁ〜!!2週間も伸ばしてたのにぃ!」とゴリゴリの体型で叫ぶ、ノンかな。気分が上がる乙女心は大事にしたい。爪、大事。

マイベスト映画「ビューティフルボーイ」もそうだけど、何かとバカにされがちなマイノリティが実力で逆風をなぎ倒す様は本当に爽快で好き。
男からはナヨっとした身なりをバカにされケツを触られ、女からは怖がられる彼らには、どちらにも寄れない哀愁があり、ストレートとはまた違う人生の悩みがある。決してそれを重苦しく書かないところにタイ映画ならではの軽さが心地よい。

エンドロールのご本人映像、演じた役者と本人たちのビジュアルがあまり遜色ないこともまぁまぁ驚いたけど、そのナヨナヨした挙動から、豪速球のスパイクが放たれるギャップに、やられた。笑
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