はやひ

否定と肯定のはやひのレビュー・感想・評価

否定と肯定(2016年製作の映画)
4.2
相当面白い。ジャンルとしては法廷闘争×歴史改竄。実話社会派モノの最先端という感じ

この映画の一番の目的は、歴史改竄主義や差別思想を糾弾すること以上に、新米女性弁護士とその彼氏の短い会話シーンにあるんじゃないか。

世間から当事者の痛みが忘れられようとしているからこそ、歴史を歪め都合の良い解釈をしようとする人々が平然と嘘を垂れ流す。しかし「忘れてはいけない過ち」というのは必ずある。いまそれを再確認しなきゃいけない、というのが映画のメッセージではなかったか。

今回面白かった最大のポイントは、法廷で歴史改竄主義と戦うということ、そして「当事者の声」を用いないということだったと思う。あくまで文献や史跡や物証、そして論理によって相手の主張の正当性を棄却することに専念したことによって、歴史の反省が明晰に行われた。これが今後「当事者」がいなくなる21世紀以後の歴史の反省のやり方であり、それが死者や生存者、遺族の声を浮かび上がらせることができる。
こうした「当事者なき世界」の歴史の反省の手法とその必要性を示したことが、この映画の最大の面白さだった。

同時にこの手法、この映画では歴史学者や法学者が活躍し、悪意ある人間と闘う。
「当事者の声」を残し、読み解く人文学の輝ける価値を示す映画だと思う。

「当事者の声」を用いることを諦め学問と弁護士の力に委ねることでデボラの主張は一貫性と公共性を帯びた(このシーンが映画の最大の転換点だろう)。全ての人が相互に繋がることができてしまう現代社会で正義を貫くために、人文学の役割はこれから高まっていくはずだと感じた。

あと邦題について。邦題「否定と肯定」は、はっきり言って問題ないと思う。
「否定派と肯定派を同じ土俵に乗せない」ことはデボラの裁判前の主張ではあったが、この映画の主張ではないと思うからだ。
高度情報化社会の現在、「歴史的事実の否定」を「意に介さない」ことはできず、「物証と緻密な論理によって一刀両断しなければいけないこともある」ということがこの映画の主張だと私は感じた。そのため「台無しな邦題」だとは思いません。
たぶん邦題をどう捉えるかにこの映画から何を得たかの違いが表れているんだろなぁ。
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