LalaーMukuーMerry

否定と肯定のLalaーMukuーMerryのレビュー・感想・評価

否定と肯定(2016年製作の映画)
3.8
ヒトラーによるホロコーストは本当にあったのか? こんなことを戦後50年以上も経って、司法の場で争うという「まさか!」というようなホントにあった裁判の話。
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原告は歴史学者でホロコースト否定論者のアーヴィング、被告はユダヤ系アメリカ人でホロコースト学者のリップシュタット。アーヴィングがリップシュタットを名誉毀損でイギリスの法廷に訴えた裁判。イギリスでは名誉棄損訴訟の場合、被告側が立証責任を負う。だからリップシュタットはアーヴィングがホロコーストについて嘘をついていることを証明しなければならなくなる(イギリスには推定無罪はない?)。リップシュタットの弁護団のとった作戦とは・・・
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アーヴィングのようなトンデモ論を言うのも表現の自由、その自由を妨げることは良くないという考えもあるが、それは間違いだろう。表現の自由を曲解して悪用する人々から表現の自由を守るための戦いこそ大切。人は誰でも自由に表現する権利はあるが、言ったことに責任を取らない態度とウソは許されない。どんなに人の意見が様々にあったとしても過去の事実は否定できないのだから。
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そんな大切なことを伝える作品でした。
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~アーヴィング=ホロコースト否定論=歴史修正主義 から思うこと~
「歴史修正主義historical revisionism」という言葉は、本来の言葉の意味よりもずっと偏った狭い意味、「歴史を歪曲すること」という意味で使われるのが一般的で、そのことにいつも違和感を覚え、危険だと感じている。こういう言葉の使い方が、論理の飛躍やミスリードを許し、間違った結論に導く一つの原因になるから。
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ヨーロッパではヒトラー、ナチスは絶対悪という立場が多くの人の基本的な考えだから、親ナチス的であった者、今も親ナチス的である人には悪のレッテルが貼られやすい。「歴史修正主義者」=親ナチス=悪。安易なレッテル貼りは事実を歪めることにつながる。(決してナチス・ドイツを擁護しているわけではなく、反ナチス・ドイツであれば必ず正しい、とは限らないということ)
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ナチス・ドイツと同盟を結んでいた日本(旧大日本帝国)が行った南京大虐殺、慰安婦問題。中国や韓国の言い分に過剰反応して反論する日本がいる(日本から見れば過剰反応しているのは中国と韓国だと思えるが・・・)。この構図はヨーロッパから見ると日本の言い分そのものが歴史修正主義(=悪)に受け取られやすい。
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だが大戦中のヨーロッパの歴史とアジアの歴史はヨーロッパ的な見方で同じように論じられるべきではない様相が多くある。そのような別の新しい視点から事実に基づいて歴史を見直す本来の意味での「歴史修正主義」(垢まみれになったこの言葉は使わない方が良いのだろうが)が日本で進みつつあるのは歴史の必然なのだろう。
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ただ、欧米の歴史観から脱却しようと動く時に陥りやすいのは、日本礼賛が度を越した歴史観。日本が古い歴史と伝統、優れた文化と国民性を持つことは誇りに感じて良い事だけど、謙虚であること、事実を大切にすること、歴史と真摯に向き合う事、それを忘れてはいけないと思う。