Inagaquilala

榎田貿易堂のInagaquilalaのレビュー・感想・評価

榎田貿易堂(2017年製作の映画)
4.1
飯塚健監督の作品はデビュー作の「Summer Nude」からほぼ全作を観ているが、この「榎田貿易堂」で新しい飯塚映画の境地を見せている。デビュー作以来得意とする群像劇的展開は影を潜め、この作品では不思議な骨董店(実際は遺品整理までする便利屋)を経営する主人公・榎田の物語が主軸となっている。もちろん脇を固めるキャラクターもあいかわらずユニークな人物が多いのだが、それらはあくまでサイドストーリーで、主人公の現在と未来にフォーカスは絞られている。それは絶妙の考え抜かれたカメラアングルからもうかがえるが、その中で躍動する俳優陣たちの演技(もちろん監督の指示のもとであるが)も図抜けている。いい意味で言えば、これは新しいかたちの「人情劇」であり、そのベタつかない感触は、その類の物語を受容しがたい自分でもじゅうぶんに観賞に耐え得るものであり、むしろ主人公の榎田に自らを重ね合わせてスクリーンを見つめている自分がいたりする。ロケの大半を監督の出身地である群馬県のS市周辺で行っているが、風景描写も効果的に取り入れ、面白うて悲しゅうて、そして力の湧いてくる作品になっている。まったくのアマチュアから始まり(なにせ映画仕事の経験もなく、映画学校も行かず、自分で資金を集めてデビュー作をつくった)、いまや画面づくりにもすっかり安定感を増した飯塚監督のさらなる展開に期待したい。
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