茶一郎

君の名前で僕を呼んでの茶一郎のレビュー・感想・評価

君の名前で僕を呼んで(2017年製作の映画)
4.7
 猛烈に愛おしい映画『君の名前で僕を呼んで』。もう10時間ほど上映時間が長くても観ていられる、この映画を後10回観たら10回とも別の感覚が得られる、そんな豊かで愛おしい映画でした。

 夏の北イタリア、17歳の少年エリオの、自分よりちょっと年上24歳の大学院生オリヴァーとの出会い。ワンショット、ワンショット、それぞれが美しく、異なる輝きを保つ映画のマジックのような物が詰まっています。イタリアの天才監督ルカ・グァダニーノと本作アカデミー脚色賞を受賞した89歳(89歳でこんな瑞々しい物語を書けるの!?)の巨匠ジェームズ・アイヴォリー、そしてアピチャッポン作品の撮影監督でお馴染みのカメラマン、サムヨプー・ムックディプローム全てのスタッフの天才的な感性が組み合わさっている感覚を受けました。
 
 「一夏の休暇」をベースとする物語は、ルカ・グァダニーノ前作『胸騒ぎのシチリア』同様、エリック・ロメール監督一連のバケーションモノの作品、特に『クレールの膝』や『海辺のポーリーヌ』を想起しましたが、ルカ・グァダニーノ作品独特の鋭い編集と、監督の映像センスがほとばしる撮影により間違いなく現代の映画にアップデートされているように思います。
 何より、主人公エリオを演じたティモシー・シャメラ!この俳優さんは一体、何者なんでしょうか!?既に「レオナルド・ディカプリオの再来」と言われ、全世界の映画ファンの虜にしているティモシー・シャメラ。本作『君の名前で僕を呼んで』では、ルカ・グァダニーノが監督作品で一貫していた奇怪なカッティングと撮影を抑え、彼の一瞬一瞬を捉える事に集中しているように見えます。編集室でルカ・グァダニーノ監督がティモシー・シャメラにメロメロになってしまい、編集の手が止まったのでは無いかと思うほどでした。
 ティモシー・シャメラの「アイドル映画」として機能しているというのが、本作『君の名前で僕を呼んで』の特異な点です。

 本当に愛おしい映画です。主人公の一挙手一投足に過去の自分を重ねる映画体験。映画時間が豊かで、豊かで、すぐ終わってしまう事を悔やみ、何でもっと上映時間が無いのかと憎みます。しかし「一夏の青春なんてそんなもんだよね」と、エリオに上から目線で言ってみます。
 素晴らしい映画は何度見ても見足りないものですが、この『君の名前で僕を呼んで』に限っては一度だけの観賞に留め、心の奥底に大切に閉まっておきたいなァと思う次第でありました。
茶一郎

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