almosteveryday

君の名前で僕を呼んでのalmosteverydayのレビュー・感想・評価

君の名前で僕を呼んで(2017年製作の映画)
4.5
それにしても、何という映像の美しさ。鮮烈な北イタリアの夏の陽射し、1983年という時代背景を的確に捉えた粗めの画質、黄色と金色のちょうど中間くらいに見える印象的なフォント色。冒頭5分で既にため息の連続でした。これ、このままずっと観ていたくなるやつだ。終わってしまうのが惜しくなるやつだ。

ストーリー展開や主演のふたり、特に若き主人公エリオことティモシー・シャラメの美しさに関しては既にあちこち言及されてる筈なので、わたしからは特に印象に残ったシーンを幾つか挙げておくことにします。まずは序盤、エリオがオリヴァーを自転車で案内するシーン。ふたりが出会ってすぐ、まだよそよそしい関係性を表わすかのように、鳥のさえずりや木々のざわめきが会話の隙間を補っているんですね。ここ、とても示唆的だと思いました。音楽や効果音は全編にわたり抑制がきいていて、時にドラマチックに時に物語に寄り添うように響いているのがよかったです。

次に、エリオが庭木から桃をもいでひとしきり懊悩する一連のくだり。90年代後半に多感な時期を過ごした日本人の約半数にはきっとお分りいただけると思うのですが、あのシーン、まさしく「真夏の果実をもぎとるように 僕らは何度もキスをした」なのですよ。あの歌詞が約四半世紀の時を経て今、完璧に映像化されたという感激に打ちふるえたわけですよ。凄いから。あれ、本当に凄いから。かように語彙力がスカスカになるほど凄いから。本当ですよ。

そして最後は、あの潔すぎるエンドロール。ネタバレに繋がりかねないので詳細は控えますが、主人公の演技ひとつで真っ向勝負に挑む姿勢がまずは素晴らしいです。そして何より、ピントの合わない背景としてハエや生活の営みが終始映し出されているという事実に志の高さを感じました。夏が終わり雪に世界を閉ざされようと、一生に一度の恋が遠く離れていこうとも、それでも毎日は続いていく。だからこそ美しい瞬間は永遠なのです。きっと。

それにしてもああ、あのトーキングヘッズのTシャツ、わたしも欲しいな。バスの車窓からの視界が今にも崖下へ転がり落ちそうに不穏に揺れるところとか、会話という会話が全部異様にハイコンテクストなところとか、何から何まで味わい深かったな。印象的なシークエンスをひとつひとつ思い出しては長らく反芻できそうな、豊かな余白がとても心地よかったです。他にも何か、思い出したらまた後で。
almosteveryday

almosteveryday