アキラナウェイ

君の名前で僕を呼んでのアキラナウェイのレビュー・感想・評価

君の名前で僕を呼んで(2017年製作の映画)
4.7
わかる、と言いたいけれど本当はわからない。

それは同性愛も、わかると言いたいけれど本当はわかってもいないのかも知れないし、「Call me by your name,call you by my name.」と言いたくなる感情も、わかると言いたいけれど本当はわからない。

北イタリアの別荘で家族と過ごすエリオ(ティモシー・シャラメ )17歳。大学教授の父が招いた24歳のオリヴァー(アーミー・ハマー)は6週間の間、同じ屋根の下で暮らす「侵略者」の筈だった。彼の訪問をガールフレンドと窓から見下ろしていたあの日に、エリオは6週間後胸を掻きむしられる様な恋心を抱く事など想像だにしなかっただろう。

先ず目を奪われるのは北イタリアの夏の風景。日の光を無限に反射させる水面、緑の樹々、目に映る全てが美しい。そして、全編ほぼ半裸で登場するエリオの美しさ。父がギリシャ・ローマ考古学専攻の教授の設定の為、合間に挿入される彫刻の美しさとエリオやオリヴァーの肉体的な美しさ。ピアノで奏でられる音楽も。そう、全てが瑞々しく美しい。

匂いや風も感じ取れそうな錯覚を覚える程の情景
演者が演じているんだという事を忘れる程の情感

何せティモシー・シャラメの演技力に驚いた。オリヴァーへの秘めたる思い。眼差しも、表情も、言葉も、行動もエリオその人だった。エンドロールが流れるラストの表情が忘れられない。

そもそも言葉に出来ない感情。カテゴライズ出来ない関係。
友情、友情以上の関係、愛情…最早言葉に意味があるのかとすら思う。定義付ける必要があるのか、定義付ける事は可能なのか。

しかし、父親がエリオに対して、この言葉に出来ない特別な感情を言語化し、優しくエリオに語り掛け、彼の心に寄り添うシーンが素晴らしかった。マイケル・S・スタールバーグの演技が光る。

「早熟」、「尚早」という意味の語源を持つアプリコットがメタファーとしてうまく活用されている。

結局冒頭の言葉に戻るが、わかると言いたいけれど、僕は本当はわかっていない様に思う。エリオやオリヴァーの張り裂けそうな思いも、2人の関係に気付いていながら優しく寄り添う父や母の思いも、わかると言ってしまうのはどこか傲慢に思えて。

何ひとつ忘れない。

この言葉に集約される、美しく儚い物語でした。