マクガフィン

君の名前で僕を呼んでのマクガフィンのレビュー・感想・評価

君の名前で僕を呼んで(2017年製作の映画)
3.3
事前知識なしで観賞したら、LGBT映画で驚く。ポスターを何気なく見ても気づかなかった、自分の鈍感さに呆れる。センスある邦題かと思えば、原題直訳のまま。
正直、LGBTを扱った映画は苦手で相性が悪いことが多い。実際のLGBTと随分かけ離れたことや、安易なLGBT賛美映画が多かったせいでもあるだろう。

1983年の夏の時代設定と実話を脚色したような堅実で破綻のない展開が良い。当時はLGBTに対する差別や偏見はあったが、それは過去の前提とするようで、LGBTに対する葛藤や苦悩よりも純粋な愛に対する葛藤や苦悩の方が強い描写の切り口が上手い。逆説的というか、LGBTの「普通」を問い質すようにも。また、監督のLGBTに対する優しい視線は、性別の垣根を取り払ったような人間賛美的なやさしさも感じる。

避暑地の緑に囲まれた別荘、そよぐ風の音、水面がきらめく湖が美しい。紺碧の空から夏の眩い光が、美術肌系で中性的な17才の美少年・エリオとインテリ系な24才美青年・オリヴァーに降り注ぐ背景は風光明媚に。2人の心の距離が近づくにつれて少しずつ時間が減速するかのように緩やかな空間になり、仕草と表情をじっくりと丹念に描かれる。激しい初恋のキラキラが眩しい官能的のような耽美的なようなで、夏のバカンスが過ぎると離れ離れになる刹那的なことと年齢差が、美しさと儚さを兼ね合わせることに。エリオと女の子のシーンを絡ませることも味を深める。

全てを知っている上での、エリオを包む込むような父親の理解とそのメッセージが素晴らしい。全否定していたらトラウマになっていたであろう。

エリオの心と体がリンクできないような、もどかしい感じが愛くるしく、今しか演じられないような瑞々しい魅力は避暑地の背景と同様に輝かしいくも。
しかし、終盤の父親のメッセージと、その後のエリオの様々な心情が合わさった表現のみで描写した数分のシーンは秀逸だが、それらのシーンで、それまでのプロットの味付けされたように感じたことと、エリオと接したした男と女の性別が反転して想像した時にカタルシスの差の違和感がおきたことは、相性がそれほど良くなかったからだろう。132分は少し長く感じた。