HAL

君の名前で僕を呼んでのHALのレビュー・感想・評価

君の名前で僕を呼んで(2017年製作の映画)
3.9
長いレビューになってしまった…。

春日井健という人の、短歌がある。

童貞のするどき指に房もげば葡萄のみどりしたたるばかり

この映画のアプリコットのシーンそのものだと、初めて映画を見て短歌を思い出したかも。「僕は病気なんだ」爆発するような若き性欲に、春日井が醸す罪の意識を、エリオも感じていたんだろう。それをオリヴァーが笑い飛ばして肯定する。迷える少年にとって、どれほど大きな存在であることか。

最初、アーミー・ハマーの姿を見たときに、観にきたことをちょっと後悔した。

完全に30歳にしか見えず(調べたら実年齢それくらい)で、20に見える24ならまだしも、完全な成人が未成年に手を出すのは、見ていられない。イタリアの法的な性行為の同意年齢が14歳であること、親が認めていたことで、なんとか倫理観をギリギリ保っているのかな…。(でも17はイタリアでも未成年)

そういう理由でどうも入り込めず、そして前半はまるで暇をもて余した神々の、優雅な生活を見ているだけのようで、うとうとしていた。それでもティモシー・シャラメが子供から大人になる一瞬の妖艶さを完璧に演じていて、度々目が覚めた。

で、倫理観が…と難癖つけながらも、二人がキスした途端に「このキスは良い、めちゃ良い」と、手のひら反し。好き同士が我慢に我慢した後のキスシーン、好き。

ノンケでもその他多数のセクシュアリティでも、そのすべての本気の恋に共通するものを描いているけれど、これはハッキリと、同性愛の映画だ。マイノリティの映画だ。

好きな相手が同性であることで余計なプロセスが入る様子を、社会的に抑圧される様子を描いているから。

今でもこういうカップルはいる。日本はまだこの映画の、古い古い時代を生きている。私自身はバイセクシュアル又はパンセクシュアルだと自認してるので、「LGBTQの存在は知ってるけど、あなたは違うでしょ?」現象に毎日のように遭遇してる。例えば、彼氏いるの?の質問だけでも、そう。

実際、私が昔付き合ってた女性は、オリヴァーそのものだった。(私情が入ってしまってきちんと見れていない気はしている)

君の名前で…の台詞は、オリヴァーが言うのか…。とちょっとがっかり。恋に溺れつつも、別れを心に決めてる側ほどこういうこと言うんですよね。一人で浸っちゃって。

悲恋ものしか目立ってなくて辛いのがLGBTQ+映画作品だけど(そうじゃなくても暗い)、息子を一人の男性として尊重し、対等に接する両親は、映画史に残るベスト・オブ・ご両親でした。この時代にこの考え方ができる人すごい。自分の性的指向を抑圧しつつも、自分を冷静に分析して、その思いを憎しみにも変えず、息子の幸せだけを考えられるお父さん、もう神の領域。泣きたおしました。

本作はラスト以外は比較的明るい映画だったと思います。どこかあっけらかんとしてて。イタリアンで。でもラストが結局…。

最後のエリオの涙、たまに怒りを感じる表情がすごかった。悲しいしものすごく怒ってるんだけど、誰を怒っていいかわからない。オリヴァーなのか、認めない両親なのか、社会なのか。わからない。オリヴァーもまた、被害者であることには違いないから。

明るいLGBTQ作品ってドラマしか浮かばない。Queer as folk やL wordに始まり…最近のLookingは傑作だった。テレビでできることとは違うのはわかるけれど、こういう明るい映画を待ってます。

仏語・伊語・英語の本作の字幕翻訳は松浦美奈さん。今やひっぱりダコだし、西語できるのは知ってたけど、伊仏まで…。かつ日本語が美しい。天才。字幕違和感ないなと思うと、たいていこの人ですね。素晴らしかった。