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君の名前で僕を呼んでのつのつののレビュー・感想・評価

君の名前で僕を呼んで(2017年製作の映画)
4.1
恐ろしいほど眩しく無邪気で稚拙で不器用な一夏の恋。

主人公エリオは外界からやってきた男性に恋をする。
エリオは自分の生まれ育った世界への興味と同時に、自分の持つ周囲とは異なる嗜好への不安や苦悩も感じる非常に普遍的な思春期の少年だ。

だから本作は同性愛というテーマを扱いながらも、昨今増えてきたマイノリティ賛歌映画とはどこか違う気がする。
本作はもっと誰にでも当てはまるような、普遍的な思春期ラブストーリーだ。

それでも本作が、同性愛が社会で持つ意味を見つめているのも確かだ。
ギリシャのポリスのように牧歌的で知的な教養に溢れた毎日に忍び寄る、ハエ、腹部の怪我、魚の不穏さがその象徴ではないか。
オリヴァーが最後にとる決断もまた、彼はこの村を離れた場所ではそうするしかなかったのだと思えば切ない余韻が残る。

そのような苦く不吉な要素も含めて輝いていた日々として思い返す、そしてその日々の終わりの辛さをひしひしと噛みしめるラストのエリオは明らかに成長してある。
1つ1つは甘酸っぱい体験でも、振り返ってみれば全てが「光源」となるというコンセプトは、base ball bearというバンドの「光源」というアルバムそっくりだ。


六週間もすれば帰国しおそらくは二度と会えないであろう同性の人に恋をしてしまう。
美しい女性の恋人をぞんざいに扱ってまでオリバーを愛するエリオを突き動かすのは何だろう。
それはオリバーが知的だからだろうか。
アメリカンなマッチョ性に惹かれるからだろうか。

いやもっと答えは単純なのかもしれない。
エリオは、自分の不安や悩みを受け止めてくれる存在を欲していた。彼女にも親にもデリケートな悩みを打ち明けられないような年代だからこそ、全く新しい存在であるオリバーを好きになる。
その燃えるような愛情は、それがもたらす苦味も含めてエリオ、そして観客に永遠の余韻を打ち込む。
そう思えてしまうぐらい、本作は世代を超えて愛される作品になっていくだろう。
それはまるでヘレニズム文化の遺跡のようだ。
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