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君の名前で僕を呼んでのsatoshiのレビュー・感想・評価

君の名前で僕を呼んで(2017年製作の映画)
3.9
 今年のアカデミー賞で脚色賞を受賞した作品。題材的にあまり興味がなかったですが、時間的に観れると考えたので、『犬ヶ島』とはしごしてきました。

 とても美しい映画でした。夏のイタリアの美しい景色、照らす太陽の光、そして登場人物たちの裸体。それらがすべて美しいのですが、一番美しいのは、主人公2人の燃え上がるような気持ちです。本作は同性愛を扱った映画ですが、決して社会派なものではなく、普遍的な一夏の思い出の話です。上述の美しさと相まって、全体的に大変美しい映画となっています。

 本作には、ストーリーらしきものはありません。エリオがオリヴァーと出会い、2人の思いを確認しあってから、後はただひたすらいちゃつくだけ。しかもなぜエリオがそこにいるのかと言えば、夏休みだから。つまり、避暑地で遊んでいるのです。また、エリオの父とオリヴァーの2人は何やら学問的なことを話し合っていますし、エリオの母はただ喋っているだけ。家事全般はメイドがやっています。つまり、彼らは好きなことをして優雅に暮らしているのです。

 私はここで、先日聴いたラジオを思い出しました。アトロクの「古代ギリシャ特集」です。あそこで藤村シンさんが語られていたことは、「古代ギリシャ人は働かず、政治のことを考えるか、暇を持て余して雑談していた」「労働は全て奴隷にやらせていた」ということ。・・・奴隷をメイドに置き換えればそのまま本作の内容と合致します。思えば、冒頭で映されていたのは古代ギリシャの彫刻でした。そしてギリシャでは同性愛も普通に行われていました。つまり、本作は、古代ギリシャをイタリアに置き換えた作品なのですね。町山さんも言ってたし。

 2人はずっといちゃついているわけですが、それにも終わりが来ます。結ばれなかったけど、あの時の彼らの気持ちは本物だったし、何物にも代えがたい気持ちだったと思います。ラストの驚異的な長回しで語られる、自身の一部ともいえる存在を失ったエリオの悲しみ。そして燃え上がっていた気持ちを象徴するかのような暖炉の火。彼の気持ちを感動的になることなく、しかし、いかに彼にとって大切な夏だったかを実感させる名シーンでした。

 このように、本作は一瞬しかない、燃え上がるような人間の気持ちを映した宝石のような作品だと思います。