磔刑

君の名前で僕を呼んでの磔刑のレビュー・感想・評価

君の名前で僕を呼んで(2017年製作の映画)
3.0
「暇を持て余した神々の遊び」

ため息が出るほど美しい。だが、美しくはあるが中身がさほど無いのが何とも言えない。

ワンカット、ワンシーンの雄麗さ。景観、人物、小道具、構図の美しさは神々しくすら思える。いや、むしろ現世におけるリアルで泥臭い苦悩や問題が意図的に排除された別荘での浮世離れした日々は神々が暮らす神話の世界そのものだ。
しかし、神話とは得てして普遍的な美しさは備わっているが、物語として面白いかと言うとそうでもない。そして、今作も同性間の恋愛のみをフューチャーした、2人が引っ付くかどうか?引っ付いた後はイチャイチャが続き、最後は判で押したように悲恋で幕を降ろすテンプレの域を出ない内容は、美の神々が演じているからこそ独自性を保てているが、そうでなければ凡作の域を出ない内容だ。
具体的な目的や問題が無く、最初から最後までフワフワした雰囲気でホモ恋愛が続き、ストーリー重視で観ていると、その悠久の時の流れを退屈に感じざるを得ない。

主人公二人の才色兼備の完璧人間っぷりも人間離れしており、彼らの恋愛劇は感情移入するものではなく、客観的に鑑賞し、楽しむものだと言える。その甘美な悩みに浸り、酔いしれれば心地良く感じれるのは理解できる。が、どうしても表層的なラノベの主人公的な陳腐な悩みにも見えなくもない。
彼ら(神々)だけの世界。その外側の人々が大して話に関わらず、そのくせ主人公の問題やコンプレックスには理解を示し(問題を勝手に解決し、言って欲しい言葉をかけてくれる)、都合のいいキャラクターになっているのも実にラノベ的で、その葛藤の乏しさがよりストーリーを弱くしている。
まぁ、それでもラノベほど陳腐、軽薄になってないのは演出力があってこそなのだが、総合的に見るとバランスは良くはないだろう。

これぐらいストーリーを薄くし、演出美に努力値を全振りした方が神話的美しさを際立たせれるのは分かるが、内容の薄さと単調さ、不要なシーンの多さ、本編の長さを考えると「うーん…」とならざるを得ない。
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