ふみか

君の名前で僕を呼んでのふみかのレビュー・感想・評価

君の名前で僕を呼んで(2017年製作の映画)
5.0
自分の好きなアイドルが面白かった、好きだと言っていたからっていう理由で観ました。17歳と24歳という年の差、限られた時間、そして性別 いろんなものの先にある愛がキラキラした宝石のような一夏の思い出として描かれていてすごく良かったです。でもそれはこの映画がエリオ視点だったからであって、当時同性愛が激しく批判されたアメリカ出身のオリバー視点で描かれていたら全く別の物語になったんだろうなと思いました。初めてみたときは「ここはどういう意味?」と感じることが多かったけれど、見終わった後に役者さんのインタビュー、レビューサイト、解説ブログを色々読んでもう一度吹き替え版を見ると「こういう意味だったのか」と理解することができました。特にソクラテスの思考やハエの役割、助手席は父の席と主張する理由、ピアノアレンジを何回もする意図とか。この作品を見る上でソクラテスの思考を理解しておくことは必要不可欠だと感じました。吹き替えでは英語圏独特の文章の雰囲気もわかりやすい日本語に言い替えられている部分が多く、より作品への理解を深められます。エリオの声を演じる入野自由さんが好きなので吹き替え版も素敵だったけれど、字幕版の役者さん本人の声も含めて完成する雰囲気がこの映画醍醐味のように感じました。名門大学の教授と語学に堪能な両親のおかげで文学や音楽に触れ合ってきたこと、両親がエリオの気持ちに気付き何も言わず受け入れたこと、同性愛を批判する人が周りにいない環境が早熟と称されるエリオの人物像を生成する大きな理由だろうし、オリバーが帰国した後のお父さんのあの言葉は色んな人が救われただろうと思いました。この世界にはさまざまな愛の形があって、どれも正解で、どれも美しかったです。エリオの彼女、オリバーとのそういうシーンはたくさんありますが一つの作品として、この作品に大きな影響を与えたギリシャ美術のように上品に昇華されています。それから、映像の色味も綺麗です。邦画にはあまり見られないフィルム感が北イタリアの雰囲気を醸し出し、若さと未熟さを意味する青はもちろんこの作品を支えた緑が最後には影のある雪景色になり、緑は電話器とエリオの瞳だけになります。エリオの表情が長回しで映されるラストシーンはエリオが今どういう心情で涙を流しているのか、こちらから色々問いかけることが出来る余韻が用意されているようで好きです。半身を追い求めるように惹かれ合う思春期の少年と知性にあふれた青年が抱く背徳感とともに渦巻く複雑な感情と衝動は予告を見ただけでは分からなかったので本当に見て良かったと思います。
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