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レザボア・ドッグスのTnTのネタバレレビュー・内容・結末

レザボア・ドッグス(1992年製作の映画)
4.8

このレビューはネタバレを含みます

 後輩に、「レザボア・ドッグス・チャレンジ」と題し1日1回、1ヶ月欠かさず「レザボア・ドッグス」を見る事を自らに課した男がいた。それ程惹きつける何かを自分も感じるので、彼はごく自然な反応をこの映画に対しみせていると言える。この映画の脚本の巧みさ、そしてそれが導き出すのっぴきならぬ状況と結末を、その散り行かねばならない男の友情に、つい見入ってしまう。完膚なきまでの完成度故に、どの選択肢もこの映画は許しておらず、避けようのない事態に成りうるしかなかったのだと認めざるを得ない。しかし何度見てもそうならないように祈りつつ、またしても同じ結末を繰り返してしまう。映画とは後悔反復マシーンで、負け犬に特化しているのではないかと思う。男が映画監督が多いのは、その権威を奮う粗野さが原因だと昨今は問題になっているが、単に負犬の性質を一番持っているのが男だからなのかもしれない(スコセッシや北野武が描くバイオレンスな内容の反面、常に暴力に恐怖する側に自分を置いていると宣言しているように)。

 映画の完成度は、監督デビュー作にしてピカイチである。淀川長治が「第三の男」は完璧すぎて嫌いだと言っていたが、今作もまたフィルモグラフィ一作目にして完璧すぎて、同じような気持ちを抱く。そう思うと「パルプ・フィクション」以降は作品としても愛嬌があるというか、とっつき易くなる。しかしその完成度こそが今作を反芻したくなる要因の一つだろう。ちなみにタランティーノの完膚なきまでの映画人としての態度は、自分は10本しか映画を撮らないと宣言し、彼の製作する姿勢自体に映画の終盤に差し掛かるかのようなサスペンスな要因を生むところからも見て取れる。こんな宣言は今までの映画界に存在しない。そんでもってその完成度は非常に観客に阿るような演出に見えてしまう。撮り方の要所要所は古典的な演出法に基づいていたり、ゴダール的なスタイリッシュさも、ゴダールが映画におけるナラティブなものを破壊する意図で使ったのと正反対に、正しくナラティブに従事させている。お人好しというか、まぁそうした見やすさと一本道に進む物語があることで、ストレートな衝撃を毎度味わえる。後悔へとまっしぐらな物語は中毒性を持ち、何度使用しても再現度抜群な麻薬と化す。

 ラストシーン。オレンジがホワイトに「俺は警察だ」と告白する。ここでそれは悲劇のトリガーになる。ちなみにこの台詞は警察マーヴィンに対しても発した言葉だが、映画において2度あることは何かの契機になるわけで、そのセオリーを守るかのようにこの告白は引き金を引かせるのである、と、律儀なタランティーノならそう考えて演出したに違いない笑。このシーン、しかし、オレンジは何故それを告白せざるを得なかったのだろう。告白しなかったら、もしかするとオレンジは助かったのかもしれない。では告白することがどんなメリットがあったのか。それは少なからずの謝罪なのかもしれない。ホワイトの恩義にだけはせめて誠意を持って真実を答えなければならなかった。秘密の告白には誠意の表れがある(その内容がその誠意と拮抗するから余計に面白い!)。そして、そんな自分は死んで当然で、死して償うべきだと判断した。そして、ホワイトがその罰を執行してくれることを信じた。オレンジはここで、真実の告白と、贖罪と、そして罰を引き受けるそれら3つを同時に起こす。これ以外の答えが果たしてあっただろうか。ホワイトの発砲には、信頼した仲間をオレンジの嘘によって殺したことへの怒りと、自身が手塩にかけた存在とともに死ぬ、つまり心中をすることと、そもそもの発端の警官への憎悪とが入り混ざっている。その全てが詰まった終わりのカットには、どこにも焦点があっていない画面だけがぽつねんと残される。そのピントのあっていない画面は、警官視点とも言えて、彼らはこの事件の全貌をついぞ知りうることがないことを表している。

 スパイク・リーが当時、登場人物による人種差別発言を批判していたようだが、映画として犯罪者がFワードを使っちゃいけないのかということを思ってしまう。今作、オレンジの相棒は黒人だし、その関係性には白人と黒人のタッグの理想図が垣間見える(それはのちの「パルプ・フィクション」でのジュールズとヴィンセントの関係性へと発展する)。以降のフィルモグラフィーでも一貫したテーマとして、タランティーノはその黒人と白人の理想的な関係性を模索しているわけで、彼自身が差別主義者たろうとしているのではないと、タランティーノの代わりに(勝手ながら)弁解しておく(「ジャンゴ 繋がれざる者」では有害な白人を自ら演じ、爆死することでこれでもかと贖罪の意思を見せている)。白人なのにブラウンの名を背負う今作の役には、もはや黒人になりたい願望さえあると思われる。
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