茶一郎

ローガン・ラッキーの茶一郎のレビュー・感想・評価

ローガン・ラッキー(2017年製作の映画)
4.3
頭脳ナシ、技術ナシ、優秀な仲間ナシ、だけども幸運なローガン兄弟が金庫破りに挑む『ローガン・ラッキー』。今作は26歳(最年少)にしてカンヌ国際映画祭で最高賞を獲得、『オーシャンズ』シリーズで知られるスティーブン・ソダーバーグ監督の監督復帰作。

 とは言うものの今作『ローガン・ラッキー』は御察しの通り、プロの犯罪者がプロのチームを作り世界最難関の金庫を華麗に破る『オーシャンズ』シリーズとは正反対、素朴でどちらかと言うとイケていない登場人物が中途半端な金庫を破るという、これを騙し・騙され・おまけに観客まで騙されてしまうという「コーンゲーム」と言って良いのかためらうほどの地味なクライム劇であります。その地味さは、劇中で「オーシャンズ『セブン』イレブン」と自己言及し、公式の宣伝文では「ダメダメ版『オーシャンズ11』」と言われる始末。
 しかし実はこの『ローガン・ラッキー』、「いかに犯罪を華麗に行うか」ではなく「いかに市井の素朴な人物が犯罪を行うか」そして「自身の行った罪にいかにして向き合い成長するか」という犯罪の「過程・最中」より「前・後」に焦点を当てた人間ドラマ的な側面が強い作品でした。
 ソダーバーグ監督は過去にマット・デイモンを主役に構え、主人公が大企業の犯罪を告発する(チクる)様子をダメダメ版『007』シリーズのように描き、その主人公が自身の裏切り行為と罪と向き合うことによって成長するコメディ『インフォーマント!』という映画を撮りました。ベースにある社会的問題の重さは違えど、今作はその『インフォーマント!』と同じ系譜にある作品と言えます。

 ある程度「コーンゲーム」モノに担保された面白さはありますので詳細は省略しつつ、つまるところ今作『ローガン・ラッキー』は、「過去の栄光を未だに追い続け現実を直視できない父親の物語」と同時に、「アメリカに裏切られた男の物語」をローガン兄弟という魅力的な主人公二人で描いた作品です。
 『オーシャンズ』シリーズと異なり明確な悪役が設定されていないのは、今作の悪役は自分自身だからであり、犯罪の準備や過程に上映時間を割いた『オーシャンズ』シリーズの一方、犯罪者(ローガン兄弟)の背景と犯罪の前後の心情を丁寧に描いているのは、この『ローガン・ラッキー』を彼らの成長物語であることを強調しました。
 何よりもタイトルに『〜ラッキー』と入れることで、『オーシャンズ』シリーズでは語り口のテンポで誤魔化していた犯罪計画の穴を「幸運」一発で片付けられるという素直さも感じます。

 社会的弱者による犯行の結果が、また社会的弱者に分配され世界全体を幸せにしていく。平凡な市政の人々の素朴な犯罪劇『ローガン・ラッキー』は、彼らの地味な犯罪までの準備をじっくり描き、この過程はソダーバーグ監督が、静かに映画監督として復帰する過程のように思えました。
 そんなソダーバーグ監督の次作は全編をiPhoneで撮影した実験作、監督の今後の犯罪的映画革命に期待します。
茶一郎

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