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フクシマ、モナムールのKUBOのレビュー・感想・評価

フクシマ、モナムール(2016年製作の映画)
4.5
今日は「ドイツ映画祭2016 HORIZONTE」オープニング作品「フクシマ・モナムール」を見てきました。桃井かおりが出演し、ベルリン映画祭でも話題になった作品だ。

3.11後の福島にドイツ人女性のマリーがボランティアの大道芸で被災者の人たちを慰安しようとやってくる。自らの婚約者との破局から逃げるように中途半端な気持ちでやってきたマリーはなかなか被災者の人たちにも溶け込めずにいたが、そんな中、桃井かおり扮する芸者のサトミに出会う。立入禁止区域にあるサトミの家で2人の不思議な生活が始まるが…。

冒頭被災地を見ながら、
Q「ここは立入禁止区域ですか?」
A「いいえ、もう住んでもいい地域ですよ、政府によればね。ただ誰も住みたい人はいないでしょうけど」とか、
山のように積まれた除染土の入った黒い袋を「いつまでもこのまま」とか、邦画では踏み込めないほど原発問題に鋭く切り込む。

被災地では「幽霊を見る」という話が多く聞かれるらしいが、後半は彼岸と此岸が混在する黒澤清のような世界も。ただ幽霊はいたずらに現れる訳ではなく、被災者が震災に置いてきた心であり、そこからまた歩き出すきっかけとなる。

監督のドリス・デリエさんは85年に初来日して以来、日本を舞台に何本も映画を撮っている親日家で、東日本大震災後はいてもたってもいられずに福島で映画を撮らねばと駆けつけたそうです。舞台挨拶では原発反対の力強いメッセージを語ってくれました。

この作品は桃井かおりさんの強烈な個性無くしては成り立たなかったであろうと思えるほど、彼女の演技に負うところが大きいと思います。マリーに日本の礼儀作法を教えるシーンでは、桃井かおりさんが「ヨーダ」に見えてきました(^^)。また英語のセリフが多いのですが、英語で喋っていてもいつもの「桃井かおり」の芝居であることにも驚かされました。英語のセリフだと英語を読むことに汲々としてしまって芝居にならないことも多いのですが(「シン・ゴジラ」の石原さとみがいい例)、桃井かおりは日本語でも英語でも桃井かおりでした。

上映後のQ&Aでは桃井かおりさんが私の質問に答えてくださり「最初はもっと枯れた老婆をイメージしていたけど、実際に仮説住宅にお住まいの被災者の方々と会ってみると、みんなすごくパワフルで、サトミのキャラクターがより力強いキャラクターになりました」とおっしゃってました。

この素晴らしい作品が日本ではまだ配給が決まっていないそうです。反原発の強いメッセージが込められた、喪失から人間が復興していく物語。桃井かおり一世一代の演技だと思います。ぜひ日本での一般公開を望みます。今日、この作品に出会えたことに感謝。
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