カタパルトスープレックス

クリスティーン(原題)のカタパルトスープレックスのレビュー・感想・評価

クリスティーン(原題)(2016年製作の映画)
4.1
アントニオ・カンポス監督が生放送中にテレビカメラの前で自殺したレポーターのクリスティーン・チュバックの物語を映画化した作品です。

同監督の最新作である『悪魔はいつもそこに』(2020年)では「正義のダークサイド」が描かれていました。どの正義が「正しく(神)」、どの正義が「悪い(悪魔)」なのか。本作のテーマも同じだと思います。

本作は実話を元にしているので、ラストはわかっています。クリスティーン・チュバック(レベッカ・ホール)の自殺です。重要なのはそこへ至る道筋です。アントニオ・カンポス監督はクリスティーン・チュバックを病的な人間ではなく、普通の悩める人間として描きます。自分の理想と現実が折り合いつかない。自分の理想と他人の理想が折り合いがつかない。多くの人はどこかで妥協したり、諦めたりして自分を保つことができる。しかし、それができない人もいる。

理想を正義と言い換えることもできます。自分の理想。自分の正義。『悪魔はいつもそこに』でもそうでしたが、本作でも政治的な背景を絡めてきます。『悪魔はいつもそこに』ではベトナム戦争。本作ではウォーターゲート事件。正義と理想と現実とのギャップ。それを人は狂気と呼ぶ。

『悪魔はいつもそこに』でもそうでしたが、アントニオ・カンポス監督は俳優を活かすのが上手いですね。本作ではクリスティーン・チュバックを演じたレベッカ・ホールですよ。まさに鬼気迫る怪演です。いろんなことが折り重なり、現実に押し潰されるクリスティーン。そのプレッシャーを跳ね除けようとする意志とは裏腹に体と心は病んでいく。その内面の発露。全てを欲しいわけではないが、全てを失うわけにはいかない。

舞台は1974年。その当時の雰囲気を出すために少し黄みがかったフィルターがかけられています。そして、サウンドトラックもロバータ・フラックが好きだったクリスティーン・チュバックっぽい音楽。仕事には厳しく、コミュ障で人付き合いはうまくない。でも、子供が好きでロバータ・フラックが好きなクリスティーン・チュバック。この二面性を出すことに成功しています。

続けてみた作品が一貫したテーマなのですごく好感を持ちました。アントニオ・カンポス監督はちょっと追いかけていきたいです。