チッコーネ

弾丸と共に去りぬ -暗黒街の逃亡者-のチッコーネのレビュー・感想・評価

3.5
約10年前に上海へ旅行した際、ちょうどこの映画が封切られていた。
チアン・ウェン監督作ということで日本公開を待っていたが、実現せず作品自体を忘れていたのだけれど、2016年ごろにひっそりDVD化されていた様子。

物語は単純だが、演出や画面加工は予想の遥か斜め上を行く。
1920年代の上海フランス租界が舞台、取り付けたアメリカ資本も相俟って、予算潤沢な欧州アート映画風の展開。
男性主人公の受難がファンタジックに描かれる作風はフェリーニ映画を彷彿とさせるほか、冒頭のショウ場面ではダンサーの脚線美を活用したバークレー・ショットも登場する。
監督の多彩な映画話術に驚かされることしきりだが、空回りを伴う気負いは感じることはなかった。
中国男子本来の豪胆をアピールしつつ、知的好奇心の充足を怠らぬ、繊細な感性を兼ね備えた人物であることは先刻承知だからだ。
またいつの世にも蔓延する欺瞞への否認、そして真の自由を希求する登場人物たちへの支持が慎ましく込められた作品でもある。
前半のヒロインは台湾出身のスー・チー、しかし本作では後半にバトンタッチを受けるチョウ・ユンの魅力が光っており、主演も務める監督のエゴをしなやかに中和していた。