けまろう

笑う故郷のけまろうのネタバレレビュー・内容・結末

笑う故郷(2016年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

『笑う故郷』鑑賞。故郷とは何かという大きいテーマですが、個々人に置き換えれば地元とは何かという、パーソナルな問題にも当てはまりそうな話。世界で経験を積んだノーベル賞作家のダニエルが、故郷に対してどう思っていたのか。それは、田舎から上京して都会を経験した若者にも通じるテーマではないだろうか。悪い意味での「井の中の蛙大海を知らず」が引き起こす、シニカルな喜劇とも捉えられる。
ダニエルは生まれ故郷アルゼンチンを捨てスペインを中心に生活していたが、栄誉を手にすると同時に地元へ凱旋する。それは、故郷をバカにしていた自分との決別の意図もあったかもしれない。しかし、彼は地元での歓待(消防車による凱旋パレードや好まないと一報していたハグ、突然他人から夕食に誘われるなど)に戸惑う。栄華を誇れると思ったはずが、何やらしっくりこない。そうした彼の「うん年ぶりの地元に対する期待」と「現実の地元」はどんどん乖離していき、彼は見下したような態度(地元の名士の作品をコンクールでボツとするなど)を取ってしまう。彼の価値基準は西洋式となってしまっており、そもそも期待する方向性が異なってしまっているのだ。「大海を知った」彼は次第に孤立していき、地元をバカにしていると謗られ、最終的には地元民のハントという野蛮な方法で悲劇へとつながっていく。
彼は初期の作品で地元の愚かさを批判的に表現しており、そこに火がついて攻撃の対象となってしまう。つまり、ダニエルは地元を犠牲にして先進国的な名誉を勝ち取ったと捉えることもできるだろう。しかし、彼にはそんな認識はなく、ズレが生じたが故の悲劇なのだった。最後、そうしたエピソードも小説のネタにしてしまうダニエルの強かさはなかなか好印象。
私自身、地元に残った中学校以前の友人とは疎遠であり、過去を踏まえず取り繕わなければならない関係性というものにはノスタルジックな哀愁を感じずにはいられない。
けまろう

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