がぶりえる

牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件 デジタル・リマスター版のがぶりえるのレビュー・感想・評価

4.9
上映時間約4時間。さすがに長い…しかし、この長さこそが非常に大事な作品だと思う。4時間を費やすだけの価値は十分にある作品だと思う。というか、傑作。凄い好きな作品。

60年代の台湾を舞台に、少年たちの日常の中にあるいざこざや恋愛模様を繊細なタッチで描き出す。
まず、少年たちの日常がもの懐かしい。恥ずかしながら、この頃の台湾の事はほとんど知らず、この時代には生まれてすらいなかったのだが、凄く懐かしさを感じた。学校、先生、校舎、お隣の撮影スタジオ、母、父、兄弟、親戚、恋人…そんな幼少時代の懐かしい「あの頃」の記憶とそこから湧き出てくる監督自身の想いがフィルムに焼き付けられている。全てが夢の様に感じられる程に柔らかく優しい。画面から溢れ出る濃厚さと温もりに包み込まれる感覚になるのだ。

しかし本作はそれだけなく、劇中の随所に微かな危うさと不穏さが垣間見えるのだ。
中国内内戦後に台湾に移り住んできた人々のフワフワとした不安定な生活環境、そして、学校という閉鎖的で正義のまかり通らない異空間。そんな環境下で生きる少年たちもまたフワフワとしていて、どこか収まりきらない雰囲気の者ばかりなのだ。そんな少年たちの一人である主人公の小四が徐々に変貌し、一つの悲劇に向かって行くまでの過程を彼が生きていた環境にフォーカスして描いている。よく「環境は人を変える」と言うがこの映画はまさにそういうことを言っていると思う。あの事件の最も大きな原因の一つは、彼の生きた環境が彼自身に悪い影響を与えてしまったことだと思う。正義のまかり通らない環境、自分の信念を押し通せという父の教え、暴力的行為に走りやすい仲間、武器銃器の手に入りやすい環境、将来の不安…全てが複雑に絡み合った結果、最悪の結果になった。もちろん、人を殺めた者に同情の余地などないのだが、小四の行動動機に凄く説得力がある様に感じた。それがとても自然な流れで、気づいた頃には手遅れな状態になってしまっている所が恐ろしいのだ。さらに付け足すと、その説得力のためにこの映画はこんなにも長いのだと思う。観客をこれだけの時間、画面の前に座らせ、小四を取り巻く環境を徹底的に描いたからこそラストの衝撃と虚しさがあるのだと思う。鑑賞前は、流石に4時間は長すぎないか?とか思っていたが、観終わればその理由に納得できるだけの面白さがあると気付けた。

ポスターに書いてある「この世界は僕が照らしてみせる」の文は映画を観終わった後に見ると胸が締め付けられるな…