岡田拓朗

牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件 デジタル・リマスター版の岡田拓朗のレビュー・感想・評価

5.0
余韻がすごい。
本当に濃密で心に深く残り、かつ刺さってくる映画。
236分の傑作。
見逃してもよいシーンが一つもなかった。

正直内容はとても難しい。
この時代の台湾ならではの空気感と雰囲気、インターネットがない時代の中で通い合うコミュニティー。

少年少女のみに焦点が当てられて展開していくかと思いきや、それぞれの家族や先生などの大人の生き様まで見せてくれた。

中学生とは思えないほどの覚悟や度量を持ちながらも、いつ壊れるかがわからない脆弱性。
不条理な社会に従うか、自らの信念を貫き通そうとするか、で揺れ動く葛藤。
初めは後者であったが、社会に抗えずに前者を選んでしまいそうになる。

この時代ならではの人間模様やそれぞれの人の生き方がとてもリアルに映し出されていた。
こんなもやもやする波乱万丈な中学生活を送る少年少女たちはいるだろうか。

時代の転換期で、社会も大人も安定しておらず、何も信用できない中、もがいていく少年少女たちの強さと絆が壊れていく脆さ。
仲間が殺されたときの復讐。
裏切られたときの苛立ち。
相手が自分の思い通りにいかなかったときにとってしまった行動。
何を信じるかわからず、疑心暗鬼になっていく様。

好きでたまらなくて、自分がこれほど愛しているんだから、こうあって欲しいという想いが強いがために、相手に過剰な愛を求めてしまう。
自分の都合のよいように、自分を想ってることを前提で進んでしまう。

自分勝手で過剰な愛が、一方通行だと感じてしまったとき、少年は冷静になれず壊れてしまい、やってはいけないことをやってしまった。
そして時間はもう戻らない。
無秩序な世界、彼女の中の世界を変えて照らすことは並大抵のことではなかった。
独りよがりに人の闇を照らそうとしてはいけない。

この時代を普通に生きていくことの難しさ、大人になりきれてない少年少女の強さと弱さと脆さ、社会や大人の不安定さ、危うさ、裏切りや人が変わっていく様など、236分にこれでもか、というくらいに色んなものが詰められていた。

なんかもうこの時代の何日かを過ごしたかのような、この時代にタイムスリップしたかのような感覚。
鑑賞というよりも体感、体験に近い。
それだけリアルにひしひしと伝わってきて、感動どころかただただ茫然とエンドロールを眺めていた。

強い者が愛する人を守れる時代、愛することにこれだけの覚悟を持たないといけないのか、と。
しかもその覚悟を中学生が持っていたのか、と考えるとただただ驚きを隠せない。
ただ、守る覚悟はあっても、どんなその人をも受け入れる覚悟はまだ持ち合わせていなかった。
中学生っぽくなくて中学生っぽかった。

言葉数は多くはないが、それぞれの立場の生き様が詰まっていて、伝わってくる本作。
光と闇の使い分けも完璧。
戦車などが出てくる雰囲気から時代背景までも読み取ることができ、今と違う環境にリアリティーもあったため、入り込みやすかった。
演技も素晴らしすぎて言葉が出ない。

長い作品ではありますが、絶対観て損はない傑作。
思わずスコア5をつけました。
本当にどう表現するかが難しい。
とりあえず観て欲しい。
岡田拓朗

岡田拓朗