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牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件 デジタル・リマスター版のundoのレビュー・感想・評価

4.3
変われない、世界の中で。

噂にたがわぬ傑作でした。
236分とかなりの長尺ですが、昨年、263分の後に175分をハシゴした時に比べればなんてことはないッス。

何よりも、無駄に長いわけではない。感性の赴くままに身を委ねるべき心地よき世界。

昨年からボツボツと台湾映画を観ていて、これが5本目ですが、繊細な作品が多くて、ハズレがない。かなり好きかも。

本作で描かれるのは、50〜60年代にかけての台湾。
戦争に敗れた日本はすでに去り、中国国民党がやってきた激動の時代。
そんな不安定な時代に青春時代を過ごす少年達。
彼らの日常は、少年らしい好奇心と衝動を暴力や音楽や恋で消費すること。

不良少年たちは、満たされぬアイデンティティを満たそうとするかのように、対立を激しくしていく。
満を持して登場する不良の親分格、ハニー(あだ名)の番長感はまるで本宮ひろ志のマンガの主人公のよう。
やがて、彼らは一線を越えてしまう。

そんな不良の世界と関わりながらも、無意識の内に、あるべき自分の姿を探し求めていく小四(シャオスー)。そして、何かを悟ったかのような大人びた不思議な少女、小明(シャオミン)。
小四は、彼女にどうしようもなく惹かれていく。



この映画は、ともすれば世界さえも自分の力で変えられるという思春期特有の高揚感を感じさせてくれる。同時に、それが独りよがりのエゴだということも。

大人になってしまえは、そういう傲慢さすら懐かしく感じられるものだけど、リアルタイムで錯覚中の少年には、そんな肥大した自意識に気づけるはずもない。

自分だけなら変えることができるかもしれない。しかし、ある日ある夜気づいてしまう。他者を変えることなど容易にはできないということを。人と人との間には、見えない壁があることを。
他者すら変えられない自分に、世界など変えられるはずもない。
その事実を受け入れて、初めて人は成長していく。
では、受け入れられない場合はどうなるだろう。
繊細な心が、汚れに触れてもなお、その美しさを保とうとした場合はどうなるだろうか。


この映画は、青春の光と影に彩られた、決してわかりあえない、自己と他者の物語。

変われない世界の中の、僕と君との物語。
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