えんさん

牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件 デジタル・リマスター版のえんさんのレビュー・感想・評価

4.0

1949年、中国での国共内戦に敗れた国民党政府は台湾に渡り、それとともに中国本土から200万人もの移民が台湾へと移住した。1960年、移住した張家の次男・小四(シャオスー)は、中学の夜間部に通っており、“小公園”と呼ばれる不良少年グループに属していた。そこで小四は少女・小明(シャオミン)と知り合う。彼女は小公園グループのボス、ハニーの彼女という噂だ。ハニーは対立する“217”グループのボスと小明を奪い合い、相手を殺して台南へ逃げたという。ある時、小四は小明と一緒にいたと217グループに因縁をつけられるが、最近、小四のクラスに転校してきた小馬(シャオマー)がひとりで助けてくれる。小四は小明へのほのかな愛情や、小馬との友情を育んで日々を過ごしていく。。男子中学生によるガールフレンド殺害という実際に起きた事件の再現を通して、1960年代当時の台湾の社会的・精神的背景をも描いていく青春映画。「海辺の一日」「恐怖分子」など台湾ニューウェイヴ映画界の旗手として知られるエドワード・ヤン監督の長編第4作目であり、日本における彼の初の劇場公開作。

先日、「ヤンヤン夏の想い出」のリバイバル上映に関する感想文を上げましたが、同じエドワード・ヤン監督による1991年製作の劇場未公開作品が今回完全版の4Kレストア・デジタルリマスターされ、劇場公開される運びとなりました。ヤン監督作は正直「ヤンヤン〜」くらいしか観ていないのですが、群像劇スタイルで多くのキャラクターを動かしながらも、そのキャラクター一人一人が物語の中で躍動している感は1作観ただけでも、その力量は十二分に感じたところ。期待をもっての本作の鑑賞でしたが、もう濃厚の一言。話の集結点は、1人の男子中学生が同級生のガールフレンドを殺してしまうという悲しいお話なんですが、その犯人でもある小四がどういう家庭環境の中、時代背景の中で、そういう悲しい結末になってしまうのかを236分(3時間56分)という長尺で描いていくのです。これが全く飽きることのない(長いな、、とは思いますが笑)味わいに、こちらはただただ圧倒されるしかないのです。

映画の冒頭、小四はいわゆる悪ガキグループには属しているものの、父親からも認められ、傍目から見ても純朴な少年でしかないのです。それが少女を殺してしまう背景には、混迷を深める戦後台湾が抱える問題も無きにしもあらずかなと思います。台湾も、日本政府による戦争統治下から脱したと思ったら、大陸から国民党政府がやってきて、もともと台湾島に在住していた人たちと移民たちとの間にどうしても利害の衝突が起こる。政権も不安定な中では、どうしても国民の安全は各地域ごとに委ねられ、その中でギャングたちが横行していったりする。大航海時代末期のニューヨークなども、そうした治安の不安定な中で描かれるギャング映画とかも結構多いのですが、本作を観ているとそれと同じような空気感を感じるのです。

ただ、そうした時代背景以上に感じるのは、殺される側のヒロイン小明に感じる小悪魔っぷりでしょうか。可愛げな少女像に見えながらも、彼女の中には結構自分に都合よく動いているところがあって、それにハニーであったり、小四であったりと、もとは純真な心を持っている男たちが惑わされている一面もあるのです。濃厚なドラマの中に潜む、彼女のさげまんぶりというか、ファム・ファタールっぽいところにも注目な作品です。