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牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件 デジタル・リマスター版のkouのレビュー・感想・評価

5.0
《僕が救ってあげる》
これはすごい作品に出会ってしまった。と映画を見ていて感じる瞬間がある。それは大抵、観たこともないようなカメラの写し方だったり、ストーリーであったり、演出の部分であるのだが、その個性は、一見して「あぁこの監督は他と違うな」とわかるのだ。それこそ、映画の醍醐味で、僕はその感覚を味わいたくて映画を見ているのではないかと思うこともある。初めてキューブリックやコッポラやタランティーノやスコセッシ等を見たときのように、衝撃がある瞬間がある。

僕自身が勉強不足で最近まで知らなかった監督である、「エドワード・ヤン」は明らかにそんな独特な感性を持った、特別な監督であることに間違いないだろう。「台北ストーリー」を見たときにはじんわりとしかわからなかったが、今作、クーリンチェ少年殺人事件の約四時間の体験はとても衝撃的なものだった。

物語は小四(シャオスー)の学校での生活、そして彼が小明(シャオミン)という少女に恋心を抱くようになる。物語の行く末のわからない展開、緊張感と、そして突如として現れる暴力。1960年代の台湾は混沌としていて、社会全体の不安定な状態が続いていたという。その社会全体、大人の不穏な空気を、少年達は徒党を組んで争った。物語も終盤に行くに従い、シャオミンという少女をめぐって、抗争が激化していく。

今作では光が効果的に使われている。小四が暗闇の中何かを照らす姿が何度か出てくる。映画も昼と夜、そんなコントラストのある映画になっていると感じた。とてもハードな環境の中、主人公小四が照らして見ていったもの。そして、彼が照らしたかったものが映画の特に見どころになっているだろう。

そんな小四の自意識と狭く偏っていく視野。劇中とても印象的な、「僕が救ってあげる」というその言葉は、ほかの青春映画のようなロマンに満ちたものではなく、その先にある歪みへとつながっていくのだ。混沌と絶望と。その結末はあまりにも切なく悲しく、えぐられるような感覚があった。

起こっていること、そして起こっていくことはとてもハードなのだが、少年たちのその姿と風景はとても美しく描き出される。どこのシーンを見ても魅せられるその映像と、台湾という場所を投影したといわれるその展開は傑作という言葉では足りないほどであると思う。本当に素晴らしい作品で、何度も見返したいと思っている。見事だった。
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