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牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件 デジタル・リマスター版のohassyのレビュー・感想・評価

5.0
「カップルズ」という映画を知ったのは25歳のころだったろうか。
当時勤めていた制作会社の映画オタク先輩が熱く語っていて、そんなに言うなら観てみるかーとレンタルして、そのままヤン監督が好きになった。
他の作品は全部観てる、これは未見だった。

上映時間4時間という迫力に気圧され見て見ぬ振りをしていたのだけど、何人かに勝手に後押しされて突然決意して、貯めまくってる代休カードを切った。
あの時の僕は素晴らしい判断をしたと思う、きっと数年後もそう思えるくらいには素晴らしい。

何を4時間も語るんだ。
みんなそう思うし僕もそう思う。
実際半分以下にまとめられるくらいのストーリーラインだ。
でもそれは違う映画になる、僕は彼らとひと夏を過ごした。
パンフレットに3時間版でカットされているシーンのことが書いてあったけれど、確かに無くても話は破綻しないけれどやっぱり違うものになっていると思う。
あのしつこいラジオのくだりがバッサリ無いなんてちょっと想像つかない。

何がそんなに良いのかなんていくらでもあるけれど、やっぱりヒロインの小明が艶かしすぎる。
決して整った顔立ちでもなければスタイルがいいわけでもない。
なのになぜ?分からない、でも絶対に無視できない。
誤解を恐れずにいえば、僕は完璧に整った顔よりは、どこか破綻してる顔の人が好きだ。
こんなところで性癖を晒すこともないと思うが、好きなんだから仕方ない。最近よく見かけるジェニファーローレンスもその類だ、すごく美形というわけではない。
どちらかといえば佐々木希のほうが整ってるのに、なんだか強烈な魅力がある。

小明役の彼女も、実のところは全然整ってない。
色白でやたら透明感があるけれど、美形かと言えばそうではないと思う。佐々木希のほうがよっぽど…、佐々木希のことは忘れよう。
とにかく世界中の中学生男子が無視できない魅力が備わっているのだ。
15歳という瞬間は、男女の精神年齢の格差が残酷なまでにまでに広く、女性が大人へとまっしぐらに登っていて、なんなら登り終えているところを、男はだいたいおっぱいのことしか考えていなかったりする。
「あいつは絶対処女だ」なんて安心してても実は全然そんなことなかったりするから、そういう真実はできれば一生教えないでください。深く傷つきます。

基本的にFIXでヒキ、深すぎる闇と映り込みを活かした演出など、ヤン監督らしさは堪能し放題。
人とグループと場所の名前が入り混じって何がどうなっているのか把握するのに難儀はしたけれど、こんなに長い映画なのに、短いカットは何か見逃したのではないかと不安にさせ、長いカットは期待もしくは不安を募らせるばかりで、なんだかずっとドキドキしていた気がする。
タイトルから殺人事件が起こることは分かっているから、それがいつどのような形でこの2人に降りかかってくるのだろうか、出来れば何事もなく夏が終わり幸せな青春の1ページとして残せないものだろうかと思いながら観ていたからかもしれない。

映像を生業としている目線からだと、シナリオは一体どうなっているのかと思う。
ト書きとかあまり想像できないから小説風なのかな。
あの緻密さだからコンテはあるだろうから、もしかしたらコンテから書いているのかもしれない。
その緻密なコンテに沿って、でも偶然も活かしながら、撮影されたに違いない。

シナリオよかったな、とか、そういう感想は無くて、ふとした時に、あっ!と思い出す。
そう言えば小四は流れ弾に当たったふりをしたし、ガンマンの真似事をしたし、暴発で危険な目にあった。
そんなエピソードの積み重ねがさりげなく効果を生んでいることを、そう言えばそういうこともあったなあと思い出す。
まるで日常生活じゃないか。

その、小四が流れ弾に当たったふりをして小明が駆け寄るシーンが1番好きです。
小四にとっての幸せの絶頂期に違いない。
パンフレットの裏表紙にもなっているけれど、とても美しい。
鑑賞後に飲んだビール、すごく美味しかったな。
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