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牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件 デジタル・リマスター版のnetfilmsのレビュー・感想・評価

4.5
 先生が告げる次男の落第の知らせに、堅実な公務員である父親(チャン・クオチュー)は「そんなはずはない」と首を横に振る。だが現実を受け入れられない父親と次男の表情は無視し、カメラはその様子を遠く離れた場所から冷静に突き放す様にフレームに収める。1947年、中国大陸の国共内戦に敗れた国民党政府は台湾に渡り、それに伴い約200万人が中国から台湾へと移住し、「外省人」となった。今作はその外省人の子供を主人公に据える。1960年、台湾に移住した張家の次男小四(張震)は中学の夜間部に通いながら、「小公園」にたむろする王茂(ワンマオ)、飛機(フェイジー)、滑頭(ホアトウ)らとつるむ不良少年だった。舞台を天井の梁に登って覗き見しては警察に連行され、70元もする高額なバットまで校長に取られる始末。何もない退屈で怠惰な日常はある日突然、小四の心に仄かな光を灯す。喧嘩に明け暮れ、手当てを受けた保健室、隣の部屋で少女は制服のスカートを左膝のあたりまで捲し上げる。透き通る様な白い肌、左膝についた激しい擦り傷、保健室の先生は彼女を教室まで連れて行くよう、小四に告げる。小明(シャオミン)(楊静恰)と並んで歩く廊下を背後から映した長回しの刹那、少女は小公園グループのボス、ハニー(林鴻銘)と付き合っていた。

 1961年6月に台湾で実際に起きた中学生男子による同級生女子殺傷事件をモチーフにした物語は、どうしようもない思いに駆られた少年が罪に走るまでを丁寧な筆致で描く。保健室での出会いと彼の優しさに小明は小四に好意を抱くが、不純異性交遊と断罪される大人の醜く、苦み走った世界は、少年の心を雁字搦めにする。両親が画策する夜間部から昼間部への転入、転校してきた軍の指令官の息子小馬(シャオマー)(譚至剛)との友情、ビリヤード場で巧妙に絡め取られた兄・老二(チャン・ハン)と質に入れた母親の腕時計、外省人の父親が内省人の隣人から受ける言われなき差別。父親が社会に適応したように、兄弟や主人公もどうしようもない社会の荒波に適応するよう求められるが、小四の心は大人になれないモラトリアムを露わにする。滑頭(陳宏宇)を退学させた男は皮肉にも同じ運命になる自分自身に抗えない。小翠(唐暁翠)を欲望のはけ口にする男は、その実、小明への思いが諦めきれない。暗闇から顔を出すバスケット・ボール、ハニーへの凶行と対比される焼きとうもろこし、「小公園」で仲間が歌ったエルビス・プレスリーのオールディーズの調べ、父親と並びながら歩く自転車のコミュニケーション、幾つもの道具立てが大人になり切れない少年の焦燥を残酷なまでに紡ぐ。236分の物語ながら時間を感じさせない、あまりにも濃厚な236分と不意に涙腺が緩むクライマックス。90年代の永遠に忘れ得ぬ傑作の復活である。
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