カルダモン

牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件 デジタル・リマスター版のカルダモンのレビュー・感想・評価

4.1
1960年代の台湾を舞台に、大人社会に反発するような子供社会が描かれる。全編にわたり少年少女たちの無着色な表情が美しい群像劇として描かれ、なかでも小明(シャオ・メイ)はファムファタールとして完璧なる存在感を放ち、魔性の透明度にすっかり魂を抜かれてしまった。

日本統治の名残が色濃い台湾の風景、それは日本のパラレルワールドのようでもあり、失われつつある日本らしさが懐かしい、という不思議な感覚にとらわれた。背景には当時の中国と台湾の"大人の事情"の不安定さを感じながら"子供の事情"が浮き彫りにされていく。

常に子供達の世界に寄り添いながら同時に俯瞰するような、矛盾を孕んだ距離感を保ち、やたらと感情を言葉で説明するような下品な描写もなく、表現はとても豊か。
とりわけ懐中電灯を点けたり消したりの演出は小四(シャオ・スー)の内面を象徴すると同時に、文字通り見えない未来の暗闇を照らそうとする。学校の昼間部と夜間部など対比構造に揺さぶられ、昼と夜の明暗はっきりとした場面転換も見事。

4時間という長尺な物語ゆえに日々のルーティンにはめ込むことはなかなか難しく、2日に分けて鑑賞。
一度の鑑賞では消化しきれず、もう一度、可能ならば劇場でドップリ浸かりたい。
最近の映画とは作品のテンポが大きく異なるけれど、ひとたび呼吸や歩調が合ってくるとこの語り口でしか聞こえてこないアレコレが見え始める。