チィ

羊の木のチィのレビュー・感想・評価

羊の木(2018年製作の映画)
4.0
人間らしいと受け入れられない人々が、"人間らしさ"を誰よりも渇望し、そして誰よりも"人間"だと感じられる、そんな世界が港町に広がっていた。ヤクザもおらず、殺人事件なんて以ての外ののんびりした田舎町に住み育った月末が段々と事件に呑み込まれていく。でも決して月末は熱血漢じゃないし、お節介でもない。映画的な熱い展開を要する要素は実は持ち合わせておらず、お人好しで尻込みしがち。彼のザ・平凡な人間らしさを観ていると、この作品はサスペンスとして作られたんじゃないんだ、と観ている途中から感づいてくるのでひょっとしたら監督の過去作のように疾走感を求めていたら物足りないかもしれない。というのは、吉田大八作品として挑んでいた私が特殊なだけであり、会場はヒィ…ってなっていたので十二分にサスペンスとしても汲み取れる。と思う!

監督の前作が「外から見る人間」だったことに比べると「内から見る人間」の方が真理が闇に包まれ不安になる。人間がいちばん信じられないのは、誰よりも知っている人間自身であり、人間らしさを一度捨て人を殺めた者に対しての拒否反応は、理解しがたい感情秩序の乱れと化し疎外する。
6人の元殺人犯が描かれる様子は、六人六様でこの作品が"人情を描きたい"と気づいた先には彼らの苦悩と葛藤が描かれている。『クラウドアトラス』という輪廻転生を行うことにより良い人に生まれ変わるか、悪い人のままで育つのかを描き続けた作品があるのだが、転生はしないけど本作にも同じ原理が当て嵌まり、「港にきた刑期を終えた者たちが全員改心しようと頑張っているんだ」という希望的観測は打ち捨てられる。でも逆に「全員悪人」という感覚も捨てざる終えず、"どこまで理解が出来るのか"という己との葛藤を行いながら本編を見ることになる。

主人公の月末はあくまでもストーリーテラーであり、月末の言動に理解が出来ない時は己を彼とは違った"人間"なんだと思えば良い。6人も連続で受け入れを担当していく様子は嫌な顔も1つもせずとても良いヤツで、パシられそうになると歯向かう様子はムキになって通常より勇気を振り絞って頑張っており、恐らく彼は家に帰ったら「疲れた〜〜」って床に寝転がるのかなとか誰しもが経験したことのある感情を体感させてくれる。

ここまで月末の事しか感想を述べていないのは、何を言ってもネタバレになりそうで6人の元受刑者に対しては真っさらな状態で彼らを知ってほしい。そして彼らの人間らしさを知ってほしい。

最後にこの映画を観て、逆も然り『シェイプ・オブ・ウォーター』…って思った方、お友達になってください。(笑)