TOMMY

羊の木のTOMMYのレビュー・感想・評価

羊の木(2018年製作の映画)
3.7
スコアに悩んでいる。もしかしたら変わるかもしれないが、鑑賞直後としてはこんな感じ。何故ここまで評価低いのか分からないがこれは好き嫌い分かれそう。ただ、本来なら4.0超えられた作品だったのは間違いない。後述するが、ラストが惜しい。

「 良いところですよ。人も良いですし、魚も美味いです 」

高齢化や過疎化が進む魚深市。市長である鳥原秀太郎は一つの大きな決断を下した。それは『元受刑者を新住民として受け入れる』こと。受け入れる元受刑者は6人、彼らを出迎える役目を引き受けることになった役人の月末は、やがて彼らが全員元殺人犯であることを知る──。

これは考えれば考えるほど面白い作品。元殺人犯が6人集まってバトルロワイヤル!でもなければ、さあ誰が犯人?という推理でもない。最初から誰が異常なのか分かりやすすぎる、というか隠す気がない。前半は淡々と静かに、ゆっくりと日常が浸食されていく様子がリアルに描かれている。どこがとは分からないがどことなくおかしい6人の元受刑者を順番に映し、これからどうなっていくのだろうという期待を募らせていく構成が上手い。
演技はほとんど全員文句なし。ジャニーズだということを感じさせない錦戸の演技は流石であるし、実力派ばかりを起用しているところから見るに、内容で勝負したいという製作側の気迫が伺える。松田龍平の飄々としているのはいつもの事だが、そんな中にも器用に歪さを混ぜこませている。エロさだけ注目されている優香だが、その他のシーンがどちらかと言うと印象的。

「 私は……人を好きになるのを、止められない 」

ただ、残念すぎるのはラスト。ネタバレは避けるが、あれはなくないか?と流石に苦笑。もうちょっとシナリオ何とかならなかったのか、と首を捻りたくなる。最後の最後での文の行動も何だか都合が良いというか、そこも人間らしさだと言われればそれまでだが、うーん。ここさえもっと丁寧に出来れば文句なし傑作となれたのに本当に惜しい。

以下、踏み込んだ考察。ネタバレ注意。
「羊の木」とは「スキタイの羊」。ヨーロッパ人の誤解から生まれたもので、木綿を知らなかったヨーロッパ人がバロメッツから取れるのがウールだと勘違いしたことから生まれた伝説が元となっている絵だという。見たものを純粋に信じることを表すらしいが、何とも皮肉っぽい。
月末は、どことなく純粋すぎるような印象を受ける。文と宮腰が付き合っていることにも気付かない、文にも私のことを分かっていないと言われたところから見ると、人の裏側をあまり見たくないのかもしれない。「同じ人間同士なんだし」と初対面の宮腰に言ってみせた彼は、受刑者たちとは全く違う方面で異常だ。勿論カッとなって宮腰の秘密をバラしてしまうなどの人間らしい部分はあるものの、すぐに自分から謝るという素直さ。首を絞められたにも関わらず崖に向かおうとする宮腰の腕を掴む彼は、少し肩を掴んだだけで逃げ出した文とは対照的だ。宮腰が月末を選んだのも、そういうところに惹かれた結果なのかもしれない。何故自分に秘密を話してくれるのか、と月末に尋ねられ、何でだろう、と返した宮腰は最初から月末のこういうところを見抜いていたとも言える。自分では止まることも出来なければ止まる気もないから、純粋に自分のことを友と思ってくれる月末と共に沈み、のろろ様にどちらを沈めるか決めてもらおうと決意したのかもしれない。神様ならきっと聖人君子な月末を選んでくれると信じていたから、「君が勝つよ」と断言したのではないだろうか。
と、ここまでがっちり人間の心理を追求していた作品なのだから、ラストの神頼み的な着地はありえないだろう!誰があれでオッケーだと言ったのか!本当に残念!