疑心暗鬼のサスペンスになりそうでならずに生煮え状態の人間ドラマがずっと続くのだけど、そのジャンルに囚われない曖昧模糊な感じが個人的にとても気に入って愉しんで観れた。とてもとても好みの映画。
町にやってくる元受刑者達それぞれの登場の仕方がまず良くて、ここで心を掴まれる。彼らを戸惑いつつも受け入れる主人公にもここで惹かれた。
元受刑者６名を演じる俳優陣はある種の夢のオールスターキャストで皆もちろん良いのだけど、優香以外の５人はタイプキャストすぎる感じもあって、しかしその枠にハマりそうでハマりすぎずにそこから半歩抜け出す流石の演技力を全員が持っていて素晴らしい。
濃い俳優陣の芝居を全部受けて、「ごく普通の男」という無色透明の主役を貫徹した錦戸亮が実は一番難しい役所だったのではと思うけど、彼がその役割を見事に務めていてさり気なく映画の軸になっている。抑え目ながら華も醸し出しているのが流石ジャニーズ。
個人的に元受刑者達の中で一番気に入ったのは優香で、(役柄としては無自覚に・役者としては自覚的に)ダダ漏れになってる色艶、欲動に忠実な人物像、 と本人のイメージを覆す複雑な役柄を見事に体現している(あと端的に言ってしまうと滅茶苦茶エロかったですよね)。この女性が主役の映画も観てみたい、と思わせる魅力的な陰影のある人物だった。
主演作「輪廻」を観てこの人は女優スイッチが入るとどこまでも突き抜けられる人だと思ったが、久々にその女優としての真価が観られた。
元受刑者達の中でも最もキーになるのは案の定松田龍平で、この辺りはネタバレになりそうなのでコメント欄にネタバレありで書きます。正直個人的にはちょっと残念な展開ではあったけれどそこは流石松田龍平で、決して安易な方向に流れず複雑な余韻を残していくのがお見事。
豪華な面々が揃った元受刑者達の中で堂々とトップバッターを務める水澤さんの熱演に「SR サイタマノラッパー」の頃を思い出しちょっと感動。
轟音でギターを掻き鳴らすUターン組のヒロイン木村文乃の人物造形も良くて、怒りや苛立ちを隠さない正直な不機嫌さが好ましい。
奇祭とのろろ様はこの映画には余計だとも言えなくもないが、この罪と罰・赦す事と赦される事についての希望的な物語にささやかな寓話感をもたらしていて個人的には肯定的に観た。
錦戸亮と松田龍平の間で何度も交わされる『友達』という言葉の軽やかさと哀しみが心に響いた。
田中泯と安藤玉恵のエピソードに作り手の希望が込められている。
