ケンシューイ

羊の木のケンシューイのレビュー・感想・評価

羊の木(2018年製作の映画)
3.8
主題歌:「Death Is Not the End」
Nick Cave & The Bad Seeds

ボブ・ディランをカヴァーしたこの楽曲が渋くてかっこいい!
そして、映画の内容ともリンクしていて、非常に意味ありげに心に響いてきた。『あゝ、荒野』と同様に、希望なのか絶望なのか、よくわからないような所に人間の真を問うてきてるみたい。

ストーリーについて。
問題のない受刑者は仮釈放してしまって、刑務所の運営に掛かる費用を、つまり税金を抑えたい。そして彼らを地方都市に移住させれば、過疎化対策にもつながる。そんな政府の思惑に揺さぶられて、漁港町である魚深市にやってきた6人の殺人犯と、そんなこととは知らされていない魚深市の人たちとが交流し、生活を共にしていく物語。漫画の原作ありだが、吉田監督は前作と同様に、ストーリー設定を大幅に変更されてる模様。

相変わらずの謎を多く含んだ吉田監督のテイストと、相変わらずの飄々とした松田龍平の演技とによって、どんどん不穏な空気の迷路にはまっていった。宮腰君(松田龍平)が殺人を犯した人だってことがわかってるのに、あの淡々とした感じで何事もないかのように町に溶け込んで生活しているのだから、その姿を見ているだけでなかなか怖い。隠れた凶暴性、人間の闇の部分というやつか。北村一輝が演じた杉山という男は見るからに悪そうな感じだったし、市役所職員の月末君(錦戸亮)はその対極で普通に良い人そうな感じだったので、そのどっちでもない二面性を持ったキャラクターがより際立って見えた。どっちに転ぶかは、信じるか信じないか、それ次第といったところ。

ちなみに主要登場人物のうち、主人公の月末(つきすえ)と宮腰(みやこし)という2人の名前だけが風変わりに思えて気になった。それ以外は杉山、太田、栗本、大野、福元、石田、須藤など割りと普通。何か意味があったんだろうか?

そして、タイトルにもなってる“羊の木”というモチーフが意味するものは一体なんなのか?市川実日子が演じた清美さんという女性が一つのきっかけをもたらすけれど、その彼女もなかなか本性が見えなくて、その行動には謎が多くて、何が何だかという感じだった。

まあ、何となく...
受刑者が羊たちで、
この町が木となれば、、

ずっとそのテーマを追っかけて観てたから
終盤に差し掛かる頃にはすっかりもう
錦戸君の顔が羊にしか見えなかった。
...でもそれはたぶんテーマとは関係が無い。

兎にも角にも吉田監督は、今回もあっぱれ。
前作も含めて一貫した信念を感じた。
社会の共生・共栄を訴えてるのかな。
友達として言ってるの?
ってちょっとコミュニティ的。
愛情とか友情とか、他人を信じることが、
社会生活の基本ではある。
太陽とか水とか土とか、
それが無いと生きていけないようなもの。

期待を裏切らない良い作品だった。