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フェンスのnatsumiのレビュー・感想・評価

フェンス(2016年製作の映画)
3.2
日本の昭和の小品を観てるような気分だった。中流階級の黒人の家族の日常を描いた作品。1950年代くらいだろうか、まさに日本は昭和なのだが、まったく同じような貧しさ、素朴さが描かれる。父と息子の衝突なんてまさに日本の頑固親父と息子、という構図にそっくり。日本人でも物凄く共感できる内容だった。

前情報なしでも、劇場を意識した作品だと分かったのは、長いセリフ回し。カットも長い。元々ブロードウェイで上演していたものをDワシントン監督で映画化したんだそう。劇への敬意のため、あまり商業作品にはしたくなかったらしく、ライティングも演出も大変控えめ。音楽なんて開始40分から流れてくる。
劇での経験のせいか出演者全員すでにファミリーのようで、良かった。デンゼルなんて本当に楽しそうに歌を歌いジョークを言う。まったく自然だ。

なにを伝えるというわけでもない、その時代、タフな生き方をせざるを得なかった人々のリアルな日々を描写し、声を代弁した。瑞々しい短編小説を読んだかのような感じ。芸術的というのでもない、上品といっても足りない、つまりはこれがアメリカの文学作品の味わいなのだろう。初めての感覚だった。ラストシーンは、沁みた。
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