IkuoKomiya

ムーンライトのIkuoKomiyaのレビュー・感想・評価

ムーンライト(2016年製作の映画)
4.8
言葉を奪う映画。映像の美しさで『ラ・ラ・ランド』を凌ぎ、演技のパフォーマンスの高みに於いて『LION』を凌ぐ。ブラックムービーと呼ぶ事が今も許されるなら『スイートスイート・バック』『ドゥ・ザ・ライトシング』と将来、並び称される事にもなるだろう。
しかしそれが言葉を奪う理由にはならない。

この映像と演技で観客の目と心を惹きこみながら本作品の語り口は しかし省略と飛躍そして暗喩に満ちている。決して難解という訳ではないが、ストーリーの核心の部分の描写は回避され容易に『これで解った』とは言わせない。それはリアルな現実の人間を理解することの困難さに重なる。
そうやって描かれるのは多面性と矛盾を孕んでいて言葉にしてしまえば途端に嘘になってしまう人の心の有り様。それ故に容易く誤解しあい、暴力で精算される人と人との関係。それでも尚、誰かを愛する、愛されようとする。監督の内面そのものかも知れない、そんな切実さだけが映画の最後に深い余韻と共に観客の心に残る。
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