いにょ

ムーンライトのいにょのレビュー・感想・評価

ムーンライト(2016年製作の映画)
3.8
2017年37本目。

主人公の少年が、自分の内面と向き合いながら成長していく過程を3つのステージに分けて経時的に描く。

主人公の置かれた環境は、LGBT・黒人・貧困・父親の不在・いじめ・母親の薬物依存と売春とネグレクトという、あらゆる社会的弱者としての属性を備えており、トランプ旋風吹き荒れる昨今この作品が選ばれたのは政治的なメッセージが多分に含まれるようで少し違和感を感じなくもない。個人的にはラ・ラ・ランドの方が分かりやすくて感情移入はできた。でもそれを差し引いても良作なのは間違いない。



何をおいても絵が美しい。瞳を覆う涙の量までを伝えるかのような顔面アップの構図が印象的で、ほんの僅かな表情筋の引き攣りやこわばりまでもが、鑑賞者の神経に糸を繋ぐように当事者の感情を生々しく伝えてくる。

見た目に分かりやすい身体性の伴う演技ではなく、ほんのわずかな表情の移ろいにすべてを乗せるような研ぎ澄まされたミニマルな演技で、映画でしか実現出来ない類のものの極北だと思う。舞台演劇とかじゃなく、こういうナチュラルに人間のやりとりが表れるような演技って本当好き。

あと印象的なのは、冒頭のフアンと売人のまわりをぐるぐる回るカメラワークとか、ドアが開くときにドアベルにクロースする撮り方とかウザくならない程度にイチイチ凝ってて魅せる。



3つのステージはそれぞれ別の役者が演じているが、伏し目がちにしゃべる仕草とか表情が3人とも似ていて手放しに同一人物ととらえてのめり込めた。

なんと言うか静かに染み込んでくるタイプの映画。最近思うのは映画ってのは音楽よりも観る時の状況によって感じ方が全く変わるものだと感じることが多くて、また全く別の精神状態のときに見てみたいと思うタイプのやつ。
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