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ムーンライトのレクのネタバレレビュー・内容・結末

ムーンライト(2016年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

恐らくアカデミー受賞してなければここまで注目されることもなく、ここまでの動員もなかったであろう内容で、万人受けするような作品ではないです。
しかし今作のような作品こそ、より多くの方に観てもらいたい作品だと思います。

‪シャロンの置かれた差別の環境、麻薬中毒などの社会問題、LGBTを扱った内容に反して、映像や色彩演出は美しく、彼の愛の形は儚い純愛であり本作はタイトル通り"月明かり"のように淡く儚い光を放っているような作品です。‬

‪シャロンの人生が幼少期のリトル篇、少年期のシャロン篇、青年期のブラック篇と3部で描かれている。

リトル篇
フアンは父親の居ないシャロンにとってはまるで父親、太陽のような存在だったのだろう。
‪彼の心に響く言葉は何も知らないシャロンを優しく包み込む。
ヤクに溺れる母親を避け、フアンとテレサに親の愛情を求めたのか。
ここで印象的なシーンがある。
フアンがシャロンに泳ぎを教えるために海へと入るシーン。
いじめっ子に追いかけられる冒頭のシーンとケヴィンと揉み合いになるシーン。
母親のシャロンに対する暴言が無音になったシーン。
これは後で記述します。

シャロン篇
彼の内気な性格がイジメからの暴力に繋がり、母親という存在に疑問を抱き、そして文字通り愛を体で感じることとなる。
そして傷つき人を傷つけてしまう。
間違いなく彼の人生のターニングポイントであろう。
ここでも印象に残っているシーンがある。
母親がシャロンから麻薬を買うためのお金を奪うシーン。

ブラック篇
金歯に筋肉隆々とシャロンの成長っぷりが見て取れる。
しかし、性格は簡単に変わるものではない。
彼の幼少期リトルをダブらせる細かな所作や仕草が垣間見れる演出は素晴らしい。
見てくれは厳つい兄ちゃんだが、内面の内気な性格が幼少期から変わらないシャロンなのだ。
ここでも印象的なのはケヴィンの経営するレストランへ入店するシーンだ。


まず、幼少期の海のシーンだが、これは様々な考察がされていますね。
海とは神聖なもので、生命の誕生を意味する。
自分はフアンに身を委ねるシャロンの姿に親子の姿を覚えました。
彼らにとっての新しい親子愛の芽生えを示唆しているのではないかと考えています。
そして、フアンはこうも語ります。
月の光に照らされると黒い肌は青く輝く。
月と海。その関係も暗に示しているのかもしれないと思います。

タイトルの「ムーンライト」。月の光。
ご存知の通り、太陽の光を反射して地球へと届けられるもの。
0.2ルクス程度の明るさしかない。
月光、月明かり、月下、月華、月影…月の光といえど、様々な呼び方が存在する。
この月の光は多種多様な愛を表現し、シャロンの恋心のように淡く儚い光を放つ。
黒い肌は月の光に照らされて青く輝く。
太陽が海を青く染めるように、月はシャロンを青く染める。
月と海の関係、寄せては返す潮汐のようにシャロンの人生もフアンの生き様を擬える。


次に、印象的なシーンですが
幼少期のいじめっ子に追いかけられるシーンとケヴィンと揉み合うシーン。
少年期の母親にお金を奪われるシーン。
青年期のケヴィンの店に入店するシーン。
これらの共通点はカメラのピントです。
ここに自分は凄く違和感を覚えました。
冒頭の追いかけられるシーンでは単なるカメラワークの問題か?とも思いましたが、このピントのボカシは恐らく演出の一つだろうと。
あえてボカすことで、映像に違和感を持たせて印象付ける。
そう、これら全てのシーンはシャロンの心理的な面での人生の要所なんだと後で気付かされました。
追いかけられるシーンではいじめへの恐怖とフアンとの出会い。
ケヴィンとの揉み合いで友情(後に愛情に変わる)の芽生え。
母親にお金を奪われるシーンで母親への嫌悪感。
ケヴィンの店に入店するシーンで愛情への再確認。
幼少期の母親の暴言が無音になるシーンもシャロンのトラウマだと印象付ける演出の一つだと思われます。
青年期でその言葉を思い出すシーンもあるので間違いないでしょう。
最終的にはフアンの言葉の通り、幼少期、青年期と嫌っていた母親を愛しく感じたのもまた青年期でした。
ここでもまたフアンの生き様を擬えています。


正直なところ、観た後に「感動した」とはならなかった。
自分の持ち合わせた言葉では形容し難い感情が、後を引いている。
感じたことはあるが、それをうまく表現することができない。
そしてこの作品を全て理解することも出来ていない。
それだけこの作品に込められたメッセージは深く、観たというより触れたという表現に近いと思う。
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