ちろる

ムーンライトのちろるのレビュー・感想・評価

ムーンライト(2016年製作の映画)
4.1
薬漬けの母、いじめ、貧困、LGBT差別という重くなりがちなテーマを抱えながらも社会的問題提起や残酷な描写はなく、一つの不器用で純粋な魂の揺らぎを描いたとても静かで神秘的な作品だった。

青い光に照らされる哀しみのシャロンと、赤い光の中に照らされる怒りの母親。
マイアミの片隅にある闇を描きながらも、壮大な音楽とともに映される映像は驚くほど美しい。

父親のように慕っていたフアンに教わって泳ぐシーンや月明かりの下でのケビンとのかけがえのない時間など、この物語では海がとても崇高な存在として位置付けられ、その海辺では優しい月明かりが、彼の混沌とした想いをいつも綺麗に洗い流してくれているように優しく包んでいた。

心休まる場所もなく、ずっと俯きながら夜の闇に隠れてきた彼にとって、海にいる時だけがフアンの言った「地球の真ん中にいる。」と思える瞬間なのかもしれない。

シャロンの言葉で、彼の想いは深く語られる事はないが、観ている私の心にも純粋な想いがじんわりと私の心にも広がってきて、LGBTなんて事はそんなことどうでもいいほど静かに心が揺さぶられる。

本作で助演男優賞を獲ったマハーシャラ アリの静かで、力強い存在感のある演技は素晴らしかったが、特に母親役のナオミ ハリスの鬼気迫る演技に圧倒され、彼女の演技があってこそのこの作品が心に響くのではないかとすら思った。

好き嫌いはあるかもしれないけど、長回しのカメラワークで見せるシャロンの精神世界や何故そうなったかという細かい部分を見せず、少ない台詞やシーン展開などで推測させるような、無駄のない洗練された構成が個人的にはとても好き。

LGBTや、黒人社会を描いた作品を今までいくつも観てきたけど、この作品は他のどれとも違う不思議な感覚を覚える作品だったが、とても静かで、華やかさはない。
そういった意味ではアカデミー作品賞を獲ったということを一旦心の脇に置いてニュートラルな気持ちで心で感じて欲しいと思う作品だった。
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