えんさん

ムーンライトのえんさんのレビュー・感想・評価

ムーンライト(2016年製作の映画)
4.0
学校では背が低いことから、”リトル”という名でいじめられる日々を送っていた内気な少年シャロン。彼はある日、いつもの通りに追いかけられる学校の仲間たちを振り切ると、周囲からは物騒な地域と呼ばれる地区に迷い込む。そこでシャロンを救ったのは、麻薬ディーラーのフアンだった。根無し草で這い上がってきたフアンは父親のいないシャロンを息子のように可愛がる。麻薬と男に溺れる母親に代わって、シャロンはフアンにいろいろなことを教わりながら成長していく。高校に進学したシャロンだが、周囲の状況は全く変わらない中、男友達のケヴィンと絆を結ぶ。家庭でも、学校でも孤立していたシャロンは、やがてケヴィンに惹かれて行くが。。。第89回アカデミー賞で作品賞、助演男優賞など3部門を受賞したドラマ。監督は、これが長編2作目となるバリー・ジェンキンス。

今年(2017年)の米アカデミー賞最優秀作品賞作品。2000年代以降、特に、2004年の第76回作品賞の「ロード・オブ・ザ・リング 王の帰還」以降、年々とアーティスティックというか、規模の小さい小品が作品賞になる傾向が強いアカデミー賞ですが、今年の受賞作である本作は、よりアート系の味が強い作品になったなという印象が観たとき感想でした。お話としては、1人の孤独な少年シャロンが成長していく中で出会った2人の男のうち、最初の麻薬ディーラーのフアンに父性を見出し、学校の同窓生のケヴィンには恋愛感情を抱くという話のみで、大きなことは本当に起こらない作品なのです。ただ、その単純なお話の中で、それぞれのエピソードに関わっていく麻薬ジャンキーの母親であったり、シャロンをいじめる同級生の存在が大きくのしかかることで、2人の男によってシャロンが如何に救われていくかが克明に描かれていくのです。ほぼ、寄りのアングルで作られる画づくりでも、それぞれのキャラクターのもつ心情がスクリーンから伝わってくるようです。

それにもう1つ、この映画のテーマとして感じるのが、麻薬がはびこるアメリカ下層社会の現実であったり、シングルマザー家庭という片親で育つ環境であったり、同性(ゲイ)同士の恋物語であったりという、今の社会では理解が進もうとはしているものの、まだマイノリティであり、スポットが当たらない人々の物語であるということ。そんな陽が当たらない中でも、愛であったり、幸せは着実に育つもの。この「ムーンライト」という題名はとっても素晴らしく、それを”月光”という名でまさに表現しきっていると思います。カメラフィルターによる色相調整であったり、照明の使い方であったりと、一工夫も二工夫もしているところでにアート系作品としても力が入ったものであることが分かるのです。なので、どのフレームカットもそれだけで絵になる。ラストシーンなんて、まさに圧巻です。

だけど、お話としては極普通というか、映画としてのボリューム感としては少しあっさりし過ぎているかなと思います。いい作品ではあるのですが、そこの部分だけ少し残念でした。