モウドクウサギ

ムーンライトのモウドクウサギのレビュー・感想・評価

ムーンライト(2016年製作の映画)
4.6
方々で言われている通り、人種差別の中の、さらにゲイといったマイノリティーかつ、幼い頃はシングルマザーにぞんざいに扱われ、イジメを受け、徹底して自身の居場所を見出せない、いや、自分自身が消えて無くなりそうな、一人の男の子の半生を描いた映画だ。アカデミー作品賞を獲ったのは、ララランド取り違い事件で有名になったが、なるほど確かに鑑賞者に高いリテラシーを要求する作品だ。自分を理解してくれる人がいるということこそが、自分自身を見出すこと、認めることに繋がると言う、静かだが鮮烈なメッセージが、ケヴィンが言った「お前の事を知らないとでも?」に込められている気がする。映像の加工による美しさも、血肉のある内容であれば、虚構ではなく、相乗的な感動を呼ぶ事実を高らかに証明した。夢を追うなら利己的で良いとするララランドが、もしアカデミー賞を獲っていたら、ナショナリズムに走るアメリカの全肯定となり、いよいよ終わりだと思っていた。しかし、そうはならずに、なかなか理解されない、ただ生きるだけでも辛い人に向けたメッセージが純に評価されたことは、極めて大きな意味があろう。