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ムーンライトのishiwasaのレビュー・感想・評価

ムーンライト(2016年製作の映画)
4.3
本年度アカデミー賞作品賞を受賞した作品。
ここでプロデューサーの1人であるブラッドピットが評価されたのは意外でも何でもない。彼のプロデューススタンスは以前から評価されるべきだと考えていたのは、映画ファンであれば僕だけではないはず。
本作もまた然り、多角的に時代を上手く切り取った秀逸な映画だった。
昨年度、受賞作に白人ノミネートばかりが並んでしまい、「白すぎるオスカー」と散々揶揄された事は記憶に新しい。
マイアミの黒人地区に生まれたシャロン。
貧困にも関わらず母親はドラッグ依存、身体が小さいからあだ名は「リトル」。学校に行けばイジメに遭い、いつしか自分はゲイだと気づく。
そんなマイノリティの極致に立たされているシャロンの成長を、本作はあくまでも「普通」の事として淡々と描き、さらに幼馴染の男子であるケヴィンとの恋愛をも特別な事として描かない。
それが本作最大の魅力である。

白すぎるオスカーの世論の影響もあり、本作が受賞されることになったのではと半疑のもと鑑賞したが、世論の影響など感じさせないぐらいリアリズムと視覚的芸術の美しさを体感する事の出来る素晴らしい作品であり、ウォン・カーウァイの「ブエノスアイレス」の影響を大きく感じさせる色彩感覚は映画ファンの支持と批評家のハートをがっちり掴んだに違いないと確信した。
監督のバリージェンキンスの演出手腕も本作で相当評価が高まったはずだ。3人の俳優が1人の「シャロン」を演じているが、驚いたことにシャロンはどこまで行ってもシャロンだった。口を半開きにして、あまり人と視線を合わせられない内向的なところや、スプーンの持ち方、そこから口に運ぶまでの仕草など、大人になって別の俳優が演じていてもやはりシャロンなのだ。その一貫したキャラクターの描写力には感動を越えて興奮すら覚えた。
また、助演男優賞を受賞したマハーシャラ・アリが演じるフアンの存在が本作をより偉大なものへと引き上げている。第1章のラストで彼のやるせない表情が胸を打つが、第3章には至るまでフアンの存在は消えることがない。結局シャロンが第3章で選ぶ人生には第1章でのフアンの存在が彼の中に棲み着いている事が示唆されているのだ。
画面から消えても存在感が残存し続ける彼の演技は、確かに助演男優賞に相応しいものだったと思う。

現在のアメリカが抱えるマイノリティの姿をあくまで当たり前のこととして描く、静謐にして美しい映画です。
今後の映画界の動向の1つの指標となるであろう作品なのでお見逃しなく。

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