りりー

ムーンライトのりりーのネタバレレビュー・内容・結末

ムーンライト(2016年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

こんなにも慎ましくひそやかなラブストーリーがアカデミー賞作品賞を獲ったのだと思うと、胸がいっぱいになる。
黒人で、母子家庭かつ貧困家庭に生まれ、母親は薬物依存症。シャロンが自分の意思で選べたことはきっと少なかっただろう。そんな環境で、彼が自分で選んだものがケヴィンへの恋だった。その恋の成就を物語の終着にしたこの映画に、つまりあの震えるほどに切ない三章に、わたしはすっかりやられてしまったよ。

浜辺での夢のような一夜のあと、二人は話を交わすことができないまま、あの決定的な事件が起きてしまう。殴ることがケヴィンの真意ではないことは、シャロンにもわかっていただろうけれど、その悲しみと痛みはどれほどのものだっただろう。ケヴィンが自分の気持ちを受け入れてくれたのかわからないまま想いを抱き続けた日々は、誰にも触れず/触れられず過ごした日々は、その孤独はどれほどのものだっただろう。だからこそ、ケヴィンからの突然の電話の翌日、すぐに彼に会いに行ってしまったのだろう。ずっと返事を待っていたのだから。
鍛えられた体で、金歯をつけ、冗談を言い、鋭い目つきをしたシャロン(ブラック)は、わたしたちが一章・二章で見守ってきたシャロン(リトル・シャロン)の姿とはあまりに違っている。その変化に戸惑うのはケヴィンも同じだ。シャロンはケヴィンが一目でわかり、ケヴィンはすぐにはシャロンだと気づくことができなかった。それでも、二人が向かい合って話を交わすうちに、話しながら伏せる目、身をすくめる動作、そして寂しそうな眼差しに、ケヴィンは、わたしたちは、あの孤独なシャロンを見つけるのだ。
シャロンとケヴィンの、お互いに話さなくてはいけないことが、聞かなくてはいけないことがあると思いながら、核心に触れずに続ける会話が、試すような目線のやりとりが、官能的で溜め息が出た。そして、あの一夜から時間は流れ、お互いにいくつもの変化を経ていながら、それでも止まったままだった"二人の"時間がまた流れ始めたことを告げる『Hello Stranger』のなんと甘美なこと!ダイナーを出てからの二人の間に流れる親密さは、きっとこの曲が二人の言い出せなかったことを代弁してくれたからだ。

終盤、シャロンは長い間秘めていた想いをついにケヴィンに告げる。あの一夜の自分が、そしていまここにいる自分こそが、本当の自分だと悟ったのだ。シャロンのあまりに孤独な旅路の果てがあの抱擁で、これからはケヴィンとともに歩んでいけるとしたら、これ以上のハッピーエンドなんてきっとない。
りりー

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