ゆず

ムーンライトのゆずのレビュー・感想・評価

ムーンライト(2016年製作の映画)
3.7
鑑賞者がどれだけ感情移入するかによるのだろうけど、少なくとも私から見れば特に大きな起伏もなく、最後は「ここで終わるのか」と思うほどあっさりした印象を受けた。主人公の半生の物語であり、とても個人的なことを描いた映画。しかし、その「こと」は事件でもなければ問題でもない、だから起伏もほとんど感じられない。展開を見るよりは状況を見るような、個人的にはそんな感じだった。もちろん物語はあるし、それが面白く展開しているのだが、なぜこう感じるのだろうか。一つは描写のリアルさが本当に現実そのものといった感じで、「物語感」がまるで感じられない。架空の人物なのに絶対どこかに実在してそうな登場人物たち。全シーン、わかる、わかると思いながら鑑賞していた。同じ状況になったことはないのだが。

しかし、これは何の映画だったのだろうか。貧困と麻薬、マイアミひいてはアメリカの現実、そして同性愛。しかしそのどれにも分かりやすい答えを出さずに終わった気がする。というか、最初から答えを出す気が感じられないのだ。この映画は問題を解決する物語ではないし、社会問題の提起すらしていないと思う。ただ主人公に寄り添って彼を取り巻く状況を描いている。しかも状況の終了はあっけなくやってくる。テーマが全然主張してこない。「なぜこの映画を撮ったんだろう」という疑問すら湧いてきてしまうのだ。こういう主張が弱めの作品が、多くの人の心を動かしアカデミー作品賞に選ばれたのが少し不思議である。やはり感情移入度によって評価が別れる作品かもしれない。
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