備忘録さん

ムーンライトの備忘録さんのレビュー・感想・評価

ムーンライト(2016年製作の映画)
4.0
シングルマザーに育てられたゲイの黒人男性の少年期、青年期、成人期の3部構成からなる成長ドラマ&純愛ドラマ。

ドキュメンタリーの様に撮られたカメラワークと演出が、主人公の目線に入り込むことを許さず、客観的な鑑賞を促す。

抜けのいい引きの絵がほぼ無く、息が詰まるような狭い寄りの絵が続き、散見されるレンズのフレア表現が、カメラの存在を強く意識させ、神の目線でハリウッド的感動物語として消費することを許さない。

全体的に淡々としているが、一部での売人との交流などは感動的で物語としての強度はキープしている。一部ラストのテーブルのシーンなどは売人の彼の誠実さと葛藤が伝わってきて胸を打つ。

青年期のロマンスシーンでも息苦しい寄りのカメラアングルは健在で、画面は暗く先を見通すことができない。環境的に広く美しい場所にいるはずだが、そうした要素はすべて排除されている。

3部になると、引きの絵や、感情を映す表情のカットが入り映画的な演出が現れる。

ラストの邂逅シーン。彼が過ごしてきた日々と長年体の奥に閉じ込めてきた気持ちを思うと、私はストレートだが彼の乙女心を抱きしめたくなる。

夜の海辺で少年期の彼が月光に美しく照らされる姿。青く光るその肌は黒人の色の黒でも、白人の白でもなく、あらゆるしがらみから解き放たれた、彼自身の自由な姿を象徴しているのだろう。

静かで余韻が残る感動的な作品だった。