きっと生まれ落ちた時は彼の体中に温かいものが流れていたはずだった
だけど 彼の外側の世界から 見せられるもの 聞かされるもの 触れられるもの 目の当たりにするもの
それらが彼を寂しくさせ 悲しませ 心細くさせ 流れているものを冷たくしていく
自分の中に流れるものが冷たいという感覚は 彼が自覚し始めるより ずっと前から存在してしまっていた そう思うと彼がかわいそうで仕方がない やりきれない
そんな彼に 親のように愛をかけてくれた男 その男との別れのシーンは描かれていないが どれだけ辛く どれだけ心細かったのだろうと 想像してみて わたしは途方にくれてしまう
彼が初めて好意を抱いた相手が 自分を受け入れてくれたこと
その時の思い出や感情や温かいものが全身に広がっていった体を 何年も何年も大切にしていたんだと知り なんて けなげ と 鼻水を拭った。