petals

ムーンライトのpetalsのネタバレレビュー・内容・結末

ムーンライト(2016年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

niggerという言葉は、黒人を指す蔑称であると同時に、黒人同士が親近感を表す呼び名でもある。

自分がlittleと呼ばれているとシャロンが話した時、テレサは「私は名前で呼ぶ」とつぶやいた。

主人公に向けられるfagotという蔑称は「ゲイを不快にさせる言葉」であり、「もしゲイでもオカマ(fagot)と呼ばせるな」とフアンは教えた。

母親は子に、ベイビー、愛おしい子、と呼びかける。それと同時に、こっちを見るな、家から出て行け、金をよこせ、と叫ぶ。


人生は残酷で、シャロンを取り巻く環境は特にそうだった。
フアンは、自分の道は自分で決めろと言ったけれど、シャロンたちの人生は決してその言葉通りには進まなかった。
薬中の母親を持ち、売人の男と親しくなったシャロンは、少年院を出たのち、みずからも売人となる。
友人のケヴィンは、結婚して子もできたけれど結局は離婚し、自分は流されてばかりだったと吐露する。
シャロンの母も、息子を愛していると言いながらも、愛情を与えられなかったことを後悔している。

一方で、人生に流されながらも、自分は自分だと言えるシャロンの変わらない強さこそが、この映画の軸なのだと思う。

劇中では主人公の呼び名が多く登場する。シャロンは、呼び名ひとつひとつの持つ意味を、手触りを、静かに確かめる。

どの呼び名も、完全な愛ではないし、完全な憎しみでもない。
どちらにも転化しうる。
それは、過酷な人生を送ってきたシャロンにとっては、闇であるというよりもむしろ、かすかな光だと思う。

だからこそ、どんなふうに呼ばれたとしても、自分は自分だ、ほかの何でもない、と言えるのだという気がした。

独特のカメラワークと、うつむきがちな主人公と、幾重にも意味を重ねるセリフが、全編に渡って不思議な浮遊感をただよわせていた。

けして派手ではないけれど、心に残る映画。