茜

ムーンライトの茜のレビュー・感想・評価

ムーンライト(2016年製作の映画)
4.0
想像以上に難しい話だった。
理解できないという意味での難しいではなく、この映画から自分が何を得て、何を見出すかが掴めなくて戸惑った。

なぜ難しいと感じるのかというと、やはり黒人社会というものが自分にとって遠い世界の事だと感じている点が大きいかなと思う。
主人公のシャロンは、黒人居住地区の貧しい母子家庭で育ち、母親は薬物依存症でネグレクト状態、学校では同級生にオカマだと罵られイジメを受けている。
そんなシャロンにとっての理解者は唯一の友人である同級生のケビンと、家族のように優しく世話を焼いてくれる麻薬ディーラーのフアンとその彼女。
しかし父親のように温かく接してくれるフアンが、母親に薬物を売り渡しているという何とも苦い現実。
これだけでも余りにも自分の幼少期とかけ離れ過ぎていて、リアルに感じろという方が難しいし、おこがましい。
でも実際にこういう世界で生きている人がいるのは事実で、だからこそ自分みたいな平和に生きている人間が安易に何も言えないし、ただストーリーを眺める事しか出来ない。
しかもこの話のほとんどが監督と脚本家が実際に体験してきた人生だというから、余計に簡単に感情移入をしてはいけない気がした(というか出来なかった)

ただ最後まで観て思ったのが、この映画の押し付けがましくないストーリーはとても好きだということ。
大人になったシャロンはヒョロヒョロだった身体を鍛えて、厳つい見た目で一見逞しく成長したように見えるけれど、実際のところ中身は成長していない。
それは大人になって再開したケビンの「すぐに俯くところは何も変わってないな」という言葉にも表れていると思う。
ケビンは少ない稼ぎながらも料理人として毎日必死に働いている一方で、シャロンは厳つい見た目で厳つい車に乗り、幼少期の自分を苦しめたはずの薬物でディーラーとして生計を立てている。
それが善とか悪とかではなく、遠い国ではこういう現実があって、こういう生活から逃れられない人がいるんだという事実をきちんと突きつけてくれるところが良かった。
単純なエンタメ作品なら、主人公は前に進んで真っ当な生き方をして幸せ万歳ハッピーエンドになるだろうけど、そうではない所がこの映画の個性であり良い点だと感じる。

フアンがシャロンに語った「自分の人生は自分で決めろ、他人に左右されるな」という言葉は、私にとって「この映画を観て何を感じるか自分の頭で考えてみろ」と言われているようでやけに刺ささるものがあったけど、でもやっぱりよく分からないし何とも言えなくて難しい。
茜