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ムーンライトのkoyamaxのレビュー・感想・評価

ムーンライト(2016年製作の映画)
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マイアミの黒人コミュニティで生きる孤独な少年とその愛を三部構成で描く。

貧困な母子家庭で育つゲイの黒人少年の話ですが、。

社会問題を通じて描かれる「マイノリティのアイデンティティを描く映画」とは少しニュアンスが違うものを感じました。


母親との確執。狭いコミュニティの中での迫害。悲惨な境遇など存在していますが、全体的にドラマチックな事象をほとんど外しています。
一般論的なことではなく、もう少しパーソナルなものへ向かう姿勢を感じました。

特に以下のこと(若干、ネタバレあります。)



学校ではいじめられっ子。ヤク中で売春婦の母親には厄介者扱いされていた主人公は少年期に精神的に導く存在である男と出会います。そのメンターである彼のその後を、、描いていません。


後に主人公は青年期に入り、これまでいじめた相手に復讐し、少年院に入ります。
弱者が復讐に転じること自体も相当な決意が必要だとおもいます。
至るまでの経緯は詳細にありますが、怒りに満ち行動するまでの心の経緯は、、描かれていません。


青年期から壮年期に至るまでに信じられないような大きな変貌を遂げていますが、それまでに、どのようにのし上がったか。どのような苦悩があったか。語られはしますが、、、描かれていません。


描かないことが多い(^^;

メンターとの交流のその先。成長と変化。この省いた過程をすべて描くだけで正にアカデミー賞大作120%くらいドラマチックになるとおもいますが、、


ここを描かない(^^;


描かないことで浮かび上がるのは、

「ひとつの感情」

必要以上の事象や展開を描かず、なおかつフォーカスを当てているのは、もはや主人公自身ですらない。。そこに去来する「ひとつの感情」にのみ、カメラで迫っています。


そして事象をほとんど追っていない中で全編にわたって描いているものは、「一人の友人」の存在。

様々な意味で彼らの間にあるものはシンプルな友情、愛情ではないのですけど、色々あって大人になり再会することになるのですが、この距離感、元友なりの距離感として進むのか、現在進行形の友として、また違う形の関係性としてお互いの変貌を心の違和感なく語り合えるのか、ぎこちなさと緊張感があり、ここでのやりとりは白眉です。

もし、この友人がいなかったら。と考えてみました。
そのような可能性に思いを馳せることを促される気もしました。そのための映画な気もします。

絶えず銃撃の恐怖に怯えるようなドラマチックな日常は私たちにはほぼありませんが、1%くらいは、超個人的だとしても劇的瞬間は誰にも必ずあるとおもいます。

この映画はほかのすべてを省いてでも、あえてそこを掘り下げた映画といってもいいかなとおもいました。

全編を彩る映像へのこだわりもまた、、この作品の世界観を感じることができました。世界観というと大げさですが、世の中や他者をどのように観ているか主体者自身のまなざしそのものに他ならないので、「世界観を自分で決めた」決意の色とも感じ取れました。
ラスト、ここであえて締めくくる。というタイミングもまたその後は「1%ではない」ことによるものだと思い、切なさが残ります。。。

劇的率1%くらいの話なので、今作をみて大した展開がない。としてもそれはそれでそうなんじゃないかとおもいます(^^;
個人的にはシンプルな人間関係ではない知人を思い出し、なかなか味わい深い映画でした。
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