ブタブタ

蠱毒 ミートボールマシンのブタブタのレビュー・感想・評価

蠱毒 ミートボールマシン(2017年製作の映画)
5.0
オープニング。
予告でおなじみのラッラッラララ〜ラ〜ラ〜ラ〜♪ラッラッラララ〜ッラ〜ラ〜ラ〜♪
の唄にのって画面いっぱいに現れる「壷」
毒蛙・蠍・毒蜘蛛・蜈蚣・毛虫、毒をもった生物が次から次へと壷の中に放り込まれ蓋が閉じられる。
《蟲毒》を映像で見せたこの冒頭で傑作と確信。
このオープニングはBlu-rayが出たら何回も見たいです。
 
《蟲毒》とは古代から伝わる呪法で、毒をもった大量の生物を壷に入れ閉じ込めると、やがて食い合い殺し合いが始まり小さな壷の中に地獄が現出する。
その地獄を制した最後の一匹はもはやただの虫けらではなく怨念の塊り、強力な呪力をもった化生(ばけもの)妖(あやかし)の類いであり呪いの憑代として使役される。
 
西村監督の『東京残酷警察』(映画祭でホドロフスキー監督に東京残酷のBlu-ray買ったぞ!と西村監督は言われたらしいです)は「バロウズとギーガーが地獄で激突したような~」とチラシに書いてありましたが、より更にパワーアップした『蟲毒ミートボールマシン』はまさに映像・表層は肉体と機械が融合したHRギーガーのバイオメカニクスの世界、そして物語の内部構造はWSバロウズのカットアップ三部作で書かれた様な宇宙からの侵略と宇宙人による搾取を描いており、寄生生命体が後進惑星の未開生命体(地球の人間)にとりついて、それを自分たちの利益や娯楽のために好き勝手に操り殺し合わせ家畜の様に搾取し吸い上げる。
無慈悲で残酷かつ不条理な何の救いもない、それ故に麻薬で完全にハイになったか如くの快楽世界。

バロウズの小説は具体的なストーリーや風景・舞台をもたず、個別の意味だけを抽質しバラバラにして並べていく、断片的な描写と光景と情報のみでひたすら何かが戦っていたり死んでいたり(話し始めると長くなるので略)実験小説で、『蠱毒ミート~』は映画である以上映像があり具体的に何が起きてるかはちゃんと分かりますが根底の部分ではバロウズ作品の訳分からなさと共通する部分が多くて(個人の感想)「血糊を4トン使った」と監督が豪語するように後半はもう画面が真っ赤っ赤。
デレク・ジャーマン監督の『Blue』は画面がずっと深いクラインブルーでしたが『蟲毒ミートボールマシン』はどぎつい赤ペンキをぶちまけた様な血飛沫のクリムゾンレッドの画面が中盤以降延々と続きます。
 
同じく「蟲毒」をテーマにした作品としては『仮面ライダー竜騎』以来?
あれも異形の物・怪物たちのバトルロワイアルを描いていました。
最後に愛する人のもとに行くのも『竜騎』の仮面ライダーナイトみたいでした。
大量のフリークスによる倫理観を無視した残虐バトルは異能バトルの原典『甲賀忍法帖』も彷彿とさせます。
 
 
サンリオSF文庫版・WSバロウズ『ノヴァ急報』の解説文は翻訳者・山形浩生氏によると全然間違ってるらしいですが↓
 
「ノヴァ(超新星)の爆発は天変地異をもたらすといわれている。地球の内紛を扇動するため他の銀河系から、ヴィールス的寄生物、破壊的な昆虫、悪霊などがやってきた。そして人間の肉体に侵入し、精神を操り、崩壊をもたらす……つまりノヴァを創出するのだ。こうしてノヴァ警察は、犯罪者と同じ心性をもって人間と自然を根本から切り離し、解決できない矛盾や政治の悪化を招き、全地球的爆発を策謀している。バロウズは、ヒロイック・ファンタジーに抜きがたい物語性を排し、黙視録的シュルレアリスムというべき断片的エピソードのカタログを作りあげた。本書は『裸のランチ』『柔かい機械』『爆発した切符』とともに四部作をなすバロウズの代表作であり、サド、ジョイス、ロートレアモンの文脈のなかで反SFの先鋒を突進し、SFのSFを切り拓いたものである」

個人的にこの解説文は大好きで『ノヴァ急報』のデタラメ解説文が偶然にも、「宇宙からの寄生生物」「人間の肉体に入り精神を操る」「ファンタジーには抜き難い物語性を廃し」「断片的エピソードのカタログ」など、『蠱毒ミート~』の作品世界をズバリ解説してる様に感じるのは気のせいでしょうか。
倒した相手の寄生宿主を潰して煙を吸うドラッグ描写も『ジャンキー』ですし。
宇宙から巨大な硝子瓶が降ってきて外部と隔絶されてからの、スカイツリー周辺地域一帯で始まる地獄絵図は、ひたすら血飛沫の雨あられとエログロナンセンスなスプラッターアクション。

個人的にはヒロイン・カオルのストーカー男が変身する「クルマネクロ」がその異常性といい造形・強さ・デザイン共にブッチギリでお気に入りです。

それと勇次(田中要次)が朝見てたTVに映ってた謎の番組に出てる剣士(坂口拓)はザンバラ髪に白装束のスタイル、あれは「明日死能」ですよね??
なのでこの作品は
『明日死能シリーズ第三弾』でもある!!
スケジュールの都合かも知れませんが出来れば坂口拓さん、本編に出て欲しかったです。

武闘警察隊の面々も特に何故か鉄椅子を持ったジャッキー隊員と、鉄杭みたいなトンファーの武器のデザインがかっこよかったです。

前作『ミートボールマシン』の主役は今やすっかり売れっ子の高橋一生さんでしたけど高橋さんがもう「こっち側(笑)」に来る事はないでしょう。
そしていくら売れようが依然として「こっち側(笑)」の斎藤工さんにはボンクラ映画ファンとしては本当に頭が下がります。
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